いつか、きっと。
電話が切れた後も、しばらく携帯を耳に当てたまま動けなかった。

未来が妊娠…………。

未来のお腹の中には、友也の赤ちゃんがいるってこと。

呆然としたまま、どのくらい時間が過ぎたのだろう。

玄関のドアが開く音でハッとして携帯を見ると、時刻は午後五時を少し過ぎていた。

「ただいまー。明日美おると?晩御飯作ると手伝ってくれんね」

そうだ今日は最後の夜。

家族揃ってご飯食べるのもしばらくできないんだから。

まだ心の中は嵐が吹き荒れているけれど、なるべく平常心を保たないと。

「うん、手伝うよ。今日はなんば作ると?」

台所に行くと、お母さんが買い物してきた食材をエコバッグから取り出していた。

「お父さんがね、明日美が作ったグラタンば食べたかとってよ。だけんグラタンは明日美に任せたばい。そいにしてもとうとう降ってきたね!もうこれで梅雨入りやろ」

「雨、降りよると?」

窓を見てみると、いつの間にか外は薄暗くなって静かな雨が降っていた。

いつの間に降りだしていたんだろう。

まるで私の心で荒れ狂う嵐がこの雨を連れてきたようだ。

「お母さん、濡れんかった?傘とか持っとらんやったろ。そ、そういえば、友也のお母さん……御子柴さんは、一緒じゃなかったと?」

ドキドキドキドキ……。

鼓動が激しくて胸が苦しくなる。

今の聞き方、不自然じゃなかったかな。

お隣同士で仲がいいんだし、一緒にランチに出掛けたのなら一緒に帰ってくるのが普通だと思うよね。

なにか特別な用事でもなければ。

「御子柴さんね、一緒に買い物して帰ろうとしたとよ。でも、突然携帯に電話のかかってきたと。そしたら『急用のできたけん』ってどっか行ってしもうたっさ。だけんお母さんは一人で買い物行ってきたとけど、そいがどうかしたと?」

「や、やっぱり…………」

未来の家に行ったんだ。

友也のお父さんも一緒に。

明日、約束したファミレスで、私はそのことを未来から聞かされるんだろう。

一体、どんな顔して聞けばいいの……?

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