いつか、きっと。
出張前の最後の晩餐は、特別なことは何もなく普通だった。

「明日美の作ったグラタンは旨か!しばらく食べられんごとなるったいな……」

「もう、そがん寂しそうに言わんと。まるで明日美が嫁入りするかのごと」

「ちょっとやめて、二人ともー。私なら当分予定もなんもなかし。出張終わったら間違いなくここに帰ってくるけん、安心してよ」

親友の未来は赤ちゃんを授かったらしいから、きっと近いうちに結婚ということになるだろう。

友也、まだ知らないんだよね。

明日未来が直接話すつもりだと言っていた。

「なぁ、明日美。福岡に行くこと、言わんでよかとか?……友也に」

お父さんから、思わぬ指摘を受けてしまった。

私と友也が本当は付き合ってなかったことを知っても、何も言わずにいてくれたのに。

「友也は明日の何時に帰るか分からんよ。それに会えたとしても、友也は私のことなんか気にしとる場合じゃなくなるけんが。余計なことは言わん方がよかとよ」

私からの返事に納得はしていないようだったけど、お父さんはそれ以上何も言わなかった。

その代わりに今度はお母さんが口を出してきたけど。

「明日美、会えるかどうか分からんとなら電話してみればよかたい。いくら仕事で泊まり掛けとは言うても、夜まで仕事しよる訳じゃなかやろうし。そいにね、"余計なこと"って思うとるとは明日美だけかも知れんばい」

「そうやろうか……」

だって今更じゃない?

私が福岡に行ったからって、友也が困るわけでもないだろうし。

私だって友也に会えたら、福岡に行くことを伝えるつもりでいた。

だけど今、その気持ちは揺らいでいる。

未来が友也との子どもを妊娠しているのなら、私が伝えたかった気持ちは友也にとって邪魔でしかないんじゃないか……。

「明日美はいつも思い込みで自分が行動するかどうか決めるやろ?時には思い込みば捨てて、自分のしたかごとしてみらんね」

「思い込みば、捨てて……?」

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