いつか、きっと。
ボタンを押そうと伸ばした指が震えてる。

今このボタンを押したら、引き返せない。

出なかったらどうしよう。

いつまでも呼び出し音を響かせるわけにもいかないし。

友也のことだからマナーモードにしてるかも知れないけど。

かといって"プルルルルル"と繰り返される音をずっと聞き続けたくない。

じゃあ回数を決めておこう。

五回……じゃ短すぎるかな。

そしたら、十回。

"プルルルルル"を十回聞いても出なかったら、やめる。

指の震えも止まったし、覚悟を決めてボタンを押した。

"プルルルルル"

"プルルルルル"

出てほしいような、出てほしくないような。

心臓の動機が激しさを増していく。

"プルルルルル"

"プルルルルル"

私がかけてきてるのを知った時、友也はどう思うんだろう。

"プルルルルル"

"プルルルルル"

もしかして、もう携帯見てたりして。

私からの着信で、出るのをためらったりしてる?

"プルルル"

プツッ。


ツー、ツー、ツー、ツー、ツー、ツー…………。

切れた。

もしかして、切られたってこと?

どうしよう。

まさかの展開に頭が真っ白になった。

携帯の画面を見てみると、友也の名前はとっくに消えて待ち受け画面に戻っていた。

友也に電話を掛けたことも、まるでなかったことのように。

でも、もしかしたら電話に出ようとして間違って切ってしまったのかも。

そうよ、友也だって私からの電話で動揺してたかもしれないし。

だとしたら今度は友也からかかってくる?

ちょっと待ってみようか……。

いやいや、待ってるなんてそんな余裕は私にはない。

気を取り直してもう一度、かけてみよう。

『お掛けになった電話は、電波の届かない場所におられるか、電源が入っていないためかかりません。お掛けになった電話は…………』

嘘、でしょ?

電源切られてる。

やっぱりさっきのは、間違って切れてしまったんじゃない。

切られたっていうこと、だ。

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