いつか、きっと。
京子たちに手を振って、ひとりベンチに腰かける。

ちょっとひとりになりたかったから良かった。

どうしても考えてしまうのは、昨日の不可解なキスのこと。

あんな皆がいるところで『誰?』なんて聞けるわけないし、私はどうすれば良かったのだろう。

暗闇だったとはいえ、もちろん私だと分かった上でしたんだよね?

考え事に没頭していて、近づいてきた人影に気が付かなかった。

「明日美、一人か?」

はっとして、声をかけてきたその人を見た。

「…………涼介くん」

私の隣に座ってしばらく黙っていた涼介くんが、ようやく口を開いた。

「昨日はごめん。突然あんなことして」

や、やっぱり、涼介くんだったんだ……。

「なんで……。なんであがんことしたと?」

もしかして、涼介くんって私のこと……好きなの?

「なんで?なんでかって言われてもな。まあ強いて言うなら、イライラすっけんかな。強引にでも行動した方がよか場合もあると思ったし。ちょっと強引すぎたかなって思わんでもなかけど」

は!?

イライラするって、なに?

「意味の分からんとけど。私がなんかした?涼介くんばイラつかせた覚えはなかとけど」

これではイラついているのは私の方だ。

涼介くんはというと、逆に落ち着き払っていて不気味ささえ感じられる。

なんでそんな冷静でいられるの?

「もしかして昨日のアレって、初めてやった?」

昨日の"アレ"って……。

なんか嫌な言い方だな。

でもハッキリと"キス"って言われるのも嫌だけど。

『何が?』ってとぼけたいけど、より詳しい追及されたら自分の首を絞めるだけだし。

「違うけど」

「……え!?」

いかにも意外な答えが返ってきて戸惑っていると言わんばかりに、目を見開いて驚いている様子の涼介くん。

そりゃそうだろう。

私だって信じられないくらいなんだから。

まさか小学六年生のクリスマスイヴの日に、キスしたなんて。

その相手が友也だったなんて。

まあ…キスなんて言っても、ハッキリ言ってあれは事故だし。

ムードもロマンチックも何もなかったけど。

だけど、私にとっては忘れることなんてできない、ファーストキスの思い出。

私が友也のことを意識するようになった、大切な思い出なんだから……。

「あのさ」

また涼介くんがとんでもないことを聞いてきた。

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