いつか、きっと。
食べ終わった食器を洗って片付けた後は、着替えて軽く化粧もして。

手荷物の最終確認も怠らない。

JRの切符やお財布などの貴重品もバッグにちゃんと入れた。

なんだかソワソワして落ち着かないけど、この自分の部屋ともしばらくの間お別れだと思うと名残惜しくなってくる。

小六から今までの十五年、ほぼ毎日ここで過ごしてきた。

佐世保出張で約二週間いなかったけど、この部屋には私の全てが詰まっている気がする。

そう思うのは、私の部屋だというだけではない。

友也の"偽者彼女"だった頃、数えきれないくらいの時間をここで過ごしてきたから。

友也と一緒に……二人きりで……。

いつまでも思い出に浸っていても仕方がない。

未練がましい気持ちを振り切るように立ち上がる。

バスの日曜ダイヤは調べていないけれど、バス停でバスを待とう。

バッグを肩にかけ、家を出た。

鍵をかけてドアに向かい、心の中で『行ってきます』と呟く。

お隣の御子柴家の方はわざと見ないようにして階段を下りた。

まだ雨が降っている。

この雨は、涙雨なのかな……。

いっそ私の心のモヤモヤを綺麗に洗い流してくれたらいいのに。

この雨に身も心もさらけ出して、濡れてしまいたい衝動に駆られてしまう。

小さい頃は雨が降ってきても構わずに遊んでずぶ濡れになって家に帰ったこともあった。

友也と出会う前の話だ。

友也との雨の思い出も懐かしい。

出会いの日、中学の卒業式、花火デート、高三のクリスマス……。

そして、最悪だったWデート。

思い出したくない思い出も、いつかは笑って話せる日が来るのかな。

『あん時はキツかったけんねー!』なんて笑い飛ばせる時がくるのだろうか。

そして友也と未来のことを、心から祝福できるようになる……?

いま降ってるこの雨だって、いつかは止む時が来るはず。

いつか、きっと。

傘をさし、歩き出そうとした私の後方から何か音が聞こえた。

クラクション?

振り返ってみると、駐車場に停まっている車の窓が開いた。

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