いつか、きっと。
「なんで?探しに来たっじゃなかと?」

「違う!散歩してたら鳴き声の聞こえたけん、見に来ただけ」

明らかにガッカリしたような顔で子犬を撫でながら、その男の子は呟いた。

「困ったばい。可哀想けど置いていくしかなかなぁ……」

ひょっとしたら誰かがこの子犬を迎えに来るのを待ってたのかな。

でも首輪もしていないから、飼い犬ではないんじゃ……。

「誰か、()うてくれる人のおればよかけどね」

思ったことをそのまま口にしただけなんだけど、私の言葉に目を輝かせた男の子。

「誰かおると?飼ってくれそうな人、おる!?」

まさかそんなに食いつかれるとは思ってなくて、軽はずみなことを言ってしまったと後悔した。

「え、えーと…。私のおばあちゃんとか……。聞いてみんば分からんけど」

「マジ!?聞いてみてくれん?うわー良かったなお前!飼い主の見つかるかもしれんぞ!」

まだ聞いてもいないのに、うちのおばあちゃんがその子犬を飼うと決まったかのように喜んでいる。

正直、私は焦った。

「まっ待ってよ!まだ分からんって!もしかしたらダメかもしれんし」

「分かっとるさ。でも希望がでてきたやろ?飼ってくれたらよかなぁ」

段ボール箱に入っているその子犬はいかにも、捨てられた様に見える。

せめて屋根のあるところにでも移してあげられたらいいんだけど。

「どこにも連れて行きようのなかけんな。なあ、えっと……俺は『みこしばともや』っていうとけど。あんたの名前は?」

そうだまだお互いの名前も知らずに喋ってた。

「私は『いくたあすみ』だよ。今日引っ越してきたと」

「へえ、どうりで見かけん顔って思った。あのさ明日またここで待ち合わせようか」

え、どうして?

きょとんとしてる私にともやくんが言った。

「ばあちゃんに聞いてくれるとやろ?その返事聞きたかし。朝の十時でよか?」

「う、うん。よかよ」

それを聞いて安心したのか、立ちあがったともやくんは傘を置いたまま走り出そうとした。

「ちょっと待って!!ともやくん!!どこ行くと?」

「あ、俺もう帰らんばけん。明日な」

え、待ってよ私だって帰らないと……。

それに……。

「雨、ひどうなっとるし!途中まで一緒に帰ろうよ。傘、入れてやるけん」

だって、こんな雨にぬれて帰ったら、風邪ひいちゃうよ?

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