クリスマスなんて夢見ない
風見駅から歩いて十五分の位置にあるボードゲーム喫茶「オープンダイス」に初めて訪れたのは、二年前だ。
きっかけはネットのゲームサイト。もともとゲーム好きなひとみにとってこの手のサイト巡りはごくあたり前な時間潰しだった。そのサイトの一つに「オープンダイス」を紹介する記事があったのである。
ボードゲーム。
モノポリーにカタン、ボードウォーク、リスク、ミステリーツアー、ミッドガルド、ライフ、ミリオネア、パイプドリーム……。
たくさんのゲームが「オープンダイス」にはあった。店長の松戸の話に寄れば四百種類以上のゲームをそろえているそうだ。
ゲームなら自然と人と交流が持てた。大学時代のゲーム同好会生活も役に立っているのかもしれない。
ゲームは楽しい。
ゲームは人と人をつなぐ。
ゲームは私を前に向かせてくれる。
ゲームは。
ゲームなら……。
でも、現実の私は。
私は……。
★★★
「2D6」
翌朝。
起きてすぐラインをチェックしていると、一件だけ気になるメッセージが入っていた。普段なら無視するところだ。
相手は松戸店長。わけがわからなかった。ひとみは数秒考えて読むことにする。
「2D6」
やっぱりわけがわからない。
ひとみはまた頭を巡らせると、とりあえず松戸に返信することにした。素早く画面をタップして文章を入力する。
「店長おはようございます。何かメッセージが送られてきたのですが、もしかして他の人と間違えていませんか?」
これでよし。
ひとみはスマホを枕元の充電ホルダーに置くと身体の向きを変えた。布団を被ったまま大きく伸びをする。十二月になってから部屋の空気は冷たくなる一方だ。布団のかかってない首から上が寒くてたまらない。
ひとみはベッドサイドにあるエアコンのリモコンを死ぬ思いでつかみ、暖房と書かれたオレンジ色のボタンを押した。
ピーット電子音がし、エアコンが動き始める。鈍い作動音が断続して鳴り、やがて生暖かい空気がエアコン本体から吐き出された。ベッドのすぐ脇の窓の上にエアコンが設置されているせいか、エアコンの機械音とかすかに不自然な臭いが気にならなくもない。だが、ひとみの住む部屋も古ければエアコンも古かった。
風見大学に入学したときから暮らしてきたのだから、ほぼ十年生活したことになる。
ひとみはもぞもぞと布団の中で朝の寒さに望みのない抵抗を試みる。しかし、社会人に悠長な朝の余韻を楽しむ余裕などない。
ひとみは観念して布団から出た。そのころには室内は暖かみを取り戻しており、どうにか布団なしでも生きていける程度には温度が上がっていた。
流れるようにひとみは着替え、コーヒーとベーグルを飲食し、出社の準備をする。
きっかけはネットのゲームサイト。もともとゲーム好きなひとみにとってこの手のサイト巡りはごくあたり前な時間潰しだった。そのサイトの一つに「オープンダイス」を紹介する記事があったのである。
ボードゲーム。
モノポリーにカタン、ボードウォーク、リスク、ミステリーツアー、ミッドガルド、ライフ、ミリオネア、パイプドリーム……。
たくさんのゲームが「オープンダイス」にはあった。店長の松戸の話に寄れば四百種類以上のゲームをそろえているそうだ。
ゲームなら自然と人と交流が持てた。大学時代のゲーム同好会生活も役に立っているのかもしれない。
ゲームは楽しい。
ゲームは人と人をつなぐ。
ゲームは私を前に向かせてくれる。
ゲームは。
ゲームなら……。
でも、現実の私は。
私は……。
★★★
「2D6」
翌朝。
起きてすぐラインをチェックしていると、一件だけ気になるメッセージが入っていた。普段なら無視するところだ。
相手は松戸店長。わけがわからなかった。ひとみは数秒考えて読むことにする。
「2D6」
やっぱりわけがわからない。
ひとみはまた頭を巡らせると、とりあえず松戸に返信することにした。素早く画面をタップして文章を入力する。
「店長おはようございます。何かメッセージが送られてきたのですが、もしかして他の人と間違えていませんか?」
これでよし。
ひとみはスマホを枕元の充電ホルダーに置くと身体の向きを変えた。布団を被ったまま大きく伸びをする。十二月になってから部屋の空気は冷たくなる一方だ。布団のかかってない首から上が寒くてたまらない。
ひとみはベッドサイドにあるエアコンのリモコンを死ぬ思いでつかみ、暖房と書かれたオレンジ色のボタンを押した。
ピーット電子音がし、エアコンが動き始める。鈍い作動音が断続して鳴り、やがて生暖かい空気がエアコン本体から吐き出された。ベッドのすぐ脇の窓の上にエアコンが設置されているせいか、エアコンの機械音とかすかに不自然な臭いが気にならなくもない。だが、ひとみの住む部屋も古ければエアコンも古かった。
風見大学に入学したときから暮らしてきたのだから、ほぼ十年生活したことになる。
ひとみはもぞもぞと布団の中で朝の寒さに望みのない抵抗を試みる。しかし、社会人に悠長な朝の余韻を楽しむ余裕などない。
ひとみは観念して布団から出た。そのころには室内は暖かみを取り戻しており、どうにか布団なしでも生きていける程度には温度が上がっていた。
流れるようにひとみは着替え、コーヒーとベーグルを飲食し、出社の準備をする。