クリスマスなんて夢見ない
 帰宅時。
 ひとみは混み合った電車の片隅で吊り革につかまり、電車と人の波に揺られながら思う。
 これから「オープンダイス」に行ってみよう。
 窓の外で暗い闇を町明かりが流れていく。
 乗客の話し声に混じって電車の走行音と車体のきしむ音が響き合った。
 近くの学生が聴くスマホの音楽がイヤホンから漏れている。
 空かない座席に苛立つ幼い子供の声。小声で母親がたしなめるが納得しない様子だ。
 ひとみは目を閉じ、松戸のことを考える。。
 私が素直になれば彼は「あと一歩」を踏み出してくれるだろうか。
 そうだ、駅に着いたら電話してみよう。
 彼の声を聞きたい。
 今夜の予定がキャンセルになったと言い訳して、彼が応じるならどこかで飲もう。
 どうしてサイコロを振らせたのか、理由を聞かなくちゃ。
 あとはお互いの気の向くままに……。
 クリスマスなんて夢見ない。
 それより今夜のことを夢見よう。
 車内アナウンスがまもなく風見駅に到着することを知らせる。
 ひとみは目を開けた。
 彼に会いたい。
 私も嘘をつかないから。
 見栄を張らないから。
 強くなるから。
 だからお願い……。
 もう一歩、私に近づいて。
 
 
**本作はこれで終了です。
 お読みいただき、ありがとうございました。
 
 
 
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