課長の瞳で凍死します ~羽村の受難~
羽村が外に出ると、彼女は、あ、と、こちらを見上げ、ととととっと走り寄ってきた。
そして、いきなり、
「なんでUターンするんですかーっ」
と叫び出す。
さっき、玄関に行きかけたが、引き返したときのことだろう。
「いや、なにか嫌な予感がして……」
まさに、こんな感じの、と思いながら、羽村はまだ、名前も知らない彼女を見下ろした。
そういえば、うちの父親も名前言わなかったな。
っていうか、知らないんだろうな……、そういう人だから、と思いながら、見るからに寒そうな彼女に、
「ずっと待ってたの?」
と訊くと、はい、と言う。
ずっと寒さのあまり、玄関前を行ったり来たりしながら、待っててくれたのか。
……課長に言わせれば、ただの不審者だが。
健気で可愛いとは思うけど。
問題は、この子、特に僕のことを好きってわけでもないってことだよねー、と羽村は思っていた。
単におじさんとやらに頼まれて、おのれの義理を果たそうと頑張っているだけのようだから。