課長の瞳で凍死します ~羽村の受難~
 なんか……、不穏な気配が……。

 大丈夫でしょうか、と雪乃は思う。

 首謀者はうちのお母さん……ってことはないですよねー?
と思いながら、雪乃は、ははは、と笑ってみせた。

 困ったときは、とりあえず、笑ってごまかす。

 真湖も羽村もよくやっている芸当だ。

 笑うと少し気持ちが軽くなる気がするからかもしれない。

 まあ、おそらく、母方の祖父に借金を肩代わりしてもらって、立つ瀬がなくなった父親が姿を消したというのが真相で、みんなが面白おかしく言っているだけなのだろうが。

 でも、なにが真実だったとしても、私はお父さんも伯父さんも、お母さんも好きです、と思いながら、雪乃は隆雄を見上げた。

 もう、実の父より、伯父に育てられた年月の方が長くなってはいるけれど。
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