課長の瞳で凍死します ~羽村の受難~



『羽村さん、今、どちらですか?』

 羽村は、雪乃の声を聞きながら、ホッとしている自分に気がついた。

 いや、いつも現れるわけではないので、帰り道に居なくても、問題ないはずなのだが。

 なにか危なっかしい感じのする子なので、実は、溝に落ちて、泣いてて来られなかったんじゃないかとか。

 沼にはまって、沈んでってるんじゃないかとか、いろいろ妄想してしまっていたからだ。

 いや、来る途中に、沼なんぞないとは思うのだが――。

 この間の背負って川を渡る話のせいだろうか、と思いながら、
「今日は真っ直ぐ帰ったんだ?」
と家に居ることを確認するように言うと、

『はい』
と言ったあとで、雪乃は黙った。

 なので、なんとなくこちらも沈黙していると、真湖に左耳をふさがれた雅喜がこちらを見ながら、声を出さずに何か言っている。
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