触れたら、痛い。
裏通りから、表通りへ。

普段、私が決して歩かないようにしていた筈の、ただ淡々と歩道を照らす街灯。

夜に甘えた灯ではない、踏むことを躊躇うような眩しさに晒されたようで、羞恥心に耳が少し赤く染まるのを感じながら、男をひたすらに追う。

「本当に狂ったの?隣を歩きたくないなら、せめて何処に向かってるかくらい教えなさいよ…。」

息も切れ切れ吐き出した憎まれ口が男に届いたのか、ふと、大きなビルの前で歩みを止めた。

まるで要塞か何かと感じるくらい、そびえ立つ其れに飲み込まれそうで、絶対に中に入りたくないと思った私を知ってか知らずか、男がにたりと笑う。

「びびってんの?ふーん…。」

まるで、いつもベッドの上で私を見下ろす時のように、くしゃりと目尻に皺を作りながら、私が追いつくのを待っている。

腹立たしい。ムカつく。…あの顔好き。
湧き上がるいろんな感情を飲み込み、ビルの入り口に立つ男に、やっとの思いで並んだ。
< 2 / 3 >

この作品をシェア

pagetop