不機嫌な彼と恋のマジックドライビング

「蓮くん…｣

耳にした呼び掛けに私たちは同時に反応して振り返った。

そこにはスーパーの買い物袋を手にした香田さんと、左腕に絡み付いた昨夜の女性がこちらに向かって歩いてきたところだった。

「明莉！？｣

香田さんの声に女性は慌てて絡めていた腕をサッと離し一歩後ろに後ずさり香田さんから距離をとった。

私は…

弾かれたように右手を振り上げ

"ぱちん！！"

香田さんの頬をおもいきり叩いていた。


「痛って…｣

叩かれた右頬を擦りながら香田さんは怒っている私を見て、何故か笑っていた。

しかも嬉しそうに。

後ろに下がった女性は驚きその場で固まっていたが、すぐにはっとしてかけより

「蓮くん！大丈夫？｣

とその頬に手を伸ばしかけてその手を急いで引っ込めて私に向き直り

「ごめんなさい！｣

と深々と頭を下げた。

謝れる意味も笑っている意味もわからなくて…

気がつけば怒っていたはずの私の目からは次々と涙が溢れだし、後ろにいたはずの田端がぎゅっと私を抱き締めて私は田端の胸に顔を埋めて止まらない涙を流し続けた。