【放浪恋愛】アリョーナの旅路~ソッフィオーネを鳴らすまで
最終回
…と言うことで終わりたかったけど…

残念ながら、そう言うわけには行かなくなっていました。

アタシとルガーノさんは、結婚をしたのはよかったけれど、早くも家庭内の問題が発生したので、また離婚しようかと思っていました。

アタシとルガーノさんは、結婚式の翌日からコモ市内にある借家で暮らすことになっていたけど、借家の賃貸契約をルガーノさんのお母さまが勝手に解除したので、二人っきりのスイートホームが壊れてしまった…

結婚したのに、ルガーノさんが親離れできないことが不満だから、離婚しようと思っている…

ほんとうに、男なんか大きらいだわ!!

最初の1ヶ月はがまんして暮らしていたけど、2ヶ月目に入ったあたりからルガーノさんのお母さまをウザいと思うようになっていた…

ルガーノさんのお母さまは、アタシとルガーノさんに同居をしてほしいと言うたのは、アタシに家庭のことを全部丸投げにして、自分勝手なことをすることが目的だった…

ルガーノさんの…ううん、もう離婚するからあいつと言うわ…あいつのお母さまは、アタシに家事全般を丸投げにして、1日中どこかへ行っていたみたい…

あいつも仕事が忙しいからと言うて、帰りはいつもゴゼンサマが多くなっていたので、アタシは家庭内でひとりぼっちになっていた…

そんなことばかりが11ヶ月間も続いていたので、アタシはあいつのお母さまとヒンパンに大ゲンカを繰り返すようになっていた…

あいつも、アタシと結婚をしてからよくないことばかりが起こっているみたいだ…

お給料が大きく下がったので、年収5万ユーロだったのが月給5000ユーロの安月給だけになった…

自分の仕事にほこりが持てなくなったと言うて、アタシに八つ当たりばかりを繰り返すようになっていた…

2030年5月6日のことであった…

アタシは、あいつと結婚生活を続けて行くことができなくなったので、離婚することを決意しました。

アタシは、あいつのお母さまの代わりに、家のことを全部して来たけど、もうガマンの限度を大きく超えていた…

あいつのお母さまは『アリョーナさんのやり方が気に入らない!!』と言うて、アタシにショッチュウいちゃもんをつけていた…

そのたびに、嫁姑の大ゲンカが起こっていた…

この日の夕食の時であった…

この日の夕食のメニューは、リーゾパスタとグリーンサラダであった…

けれど、食卓の雰囲気はどす黒くよどんでいた…

あいつのお母さまは、アタシに『アタシが教えた作り方じゃないわ!!』と言うて、アタシにいちゃもんつけてきたので、アタシはブチ切れてしまった…

「義母(おかあ)さま!!アタシの味付けの仕方が気に入らないと言うのであれば食べなきゃいいでしょ!!」

「アリョーナさん!!何ですかその言い方は!?アタシは、アリョーナさんにしっかりしてほしいから言っているのよ!!」

「やかましいわねバカシュウトメ!!よくもアタシにいちゃもんつけたわね!!」

アタシとあいつのお母さまが、嫁姑の大ゲンカをしている時であった…

あいつは『フザケルな!!』と怒鳴ったあと、ミネラルウォーターが入っているタンブラを床に叩きつけたあと、アタシとお母さまにこぶしをふりあげながら、怒鳴り声をあげていた…

「さっきから聞いていたら何なのだよ!?おふくろは、オレとアリョーナの結婚がそんなに気に入らないのか!?仕事でつかれて帰ってきたオレの前で、くだらん大ゲンカをしているのが頭に来るのだよ!!」

あいつは、ワーッと大声でさけんだ後、食卓を思い切りひっくり返して、家中を暴れ回っていた…

(ガラガラガラガシャーン!!)

あいつはキレてしまうと、近所に怒鳴り声が聞こえるほど大暴れをして、部屋中をめちゃくちゃにしてしまうので、手に負えなくなる…

アタシとお母さまは、あいつが暴れだした時、どうすることもできずにうろたえていた…

この時アタシは、何ですぐにキレてしまうあいつと再婚したことをものすごく後悔していた…

あの日、ふたりでウェディングベルを鳴らしたのは何だったのか…

もうイヤ!!

あいつと離婚してやる!!

…と言うことで、アタシの結婚生活はトンザしてしまいました。

アタシは、あいつの家を飛び出した後マルペンサエクスプレスのノルド線のコモ駅の近くにあるアパートに移って、再びひとり暮らしを始めました。

あいつの家には、自分の着替えを取りに帰るくらいしか行かない…

アタシは、あいつと離婚をすることを前提に別居生活を始めることになった…

アタシは、再びかけもちバイトの暮らしを始めました。

アタシは、列車でミラノ市内へ行って、日中はマジェンタ大通りにある病院で水回りの清掃の仕事をして、夜はSヴィットーレ通りにあるスポーツバーとかけもちで働いていました。

月給は、合わせて700ユーロであります。

その中から家賃と定期代で合わせて360ユーロが引かれるので、残った340ユーロで生活をして行かなくてはならなかった…

女ひとりが340ユーロで生活をして行くのは、とてもとは言えませんが足りない…

足りない分は、イギリスの男性雑誌のグラビアの撮影が来る日にヌードモデルをするなどして、500ユーロのモデル料を稼いで、不足分をおぎなっていた…

けれども、まだ生活は苦しい方であった…

その一方で、あいつはアタシが出ていった後会社を無断で欠勤をしたり早退をすることばかりを繰り返していた…

この時、アタシとあいつの愛は音を立てて崩れて行こうとしていた…

アタシがあいつの家を飛び出してから1ヶ月後のことであった…

あいつの気持ちのすさみは、さらに加速をしていた…

無断欠勤をしている日ばかりがズルズルと続いていたから、会社から足が遠ざかっていた…

あいつは、それまではがんばって会社に出勤をしていたけど、アタシと結婚をしたとたんに就労意欲が低下をしていたみたいだ…

あいつのおじさんが経営している会社は、今どのような経営状況になっているのかはよく分からないけど、あいつはおそらく本職を外されて、なれない仕事をしていたので、気持ちが落ち着いていなかったのだろうと思っていた…

この最近のことだけど、あいつが勤めていた会社の従業員のみなさまのお給料がカットされたと言う話を聞いていた…

あいつが勤めていた会社の経営状況は、欧州経済が低迷していることにより本業である海外事業の業績不振がロテイしていると言うていたけど、そんなのは真っ赤なウソだから信用できない…

そして、アタシがあいつの家を飛び出してから4ヶ月が過ぎた頃であった…

アタシは、あいつの家に残っている自分の品物を全部取り出すために、一度コモ市内にあるルガーノさんの家に行くことにした…

アタシは、残っている自分の着替え類やメイク道具を紙袋につめていた…

一階の居間では、あいつとお母さまが大声をはりあげて怒鳴り合いの大ゲンカを起こしていた…

おじさまが経営している会社に出勤なくなったあいつをお母さまがひどく心配していた…

お母さまは、あいつに『もう一度おじさまにお願いをしておくから、会社に出勤をしてほしい…』とコンガンしていた…

しかし、あいつはおじさまが経営している会社をやめて、転職をしたいと言うてかたくなになっていた…

さらにそのまた上に、アタシと結婚をしたことに不満をつのらせていたので『アリョーナと結婚なんかするのじゃなかった!!』と言い放ったあと、さらに大きな声でこう怒鳴っていた…

「フザケルなよ!!オレとアリョーナの結婚にケチをつけておいて、一体何なのだよ!?オレはアリョーナと結婚をしてからついていないことばかりが続いているのだよ!!お給料はカットされるし、アリョーナと大ゲンカが続いたから、アリョーナが出ていってしまった!!どうしてアリョーナが出ていったのかが分からないのかよ!?アリョーナにばかり家庭のことを押し付けていたからこうなってしまったのだろ!!」

「何を言っているのよ!?そんなことよりも、どうしておじさんの会社に行こうとしないのよ!?」

「話をすり替えるな!!オレはおじさんの会社には近いうちに辞表を出すのだよ!!おじさんの会社をやめて、新しいことにトライしようと思っているのをどうして止めるのだ!?」

「止めたくもなるわよ!!おじさんは、ルガーノに会社に来てほしいと言っているのよ!?」

「何だと!!もういっぺん言ってみろ!!おじさんの会社しか行くところがないようにしたのはあんたなんだから、オトシマエつけろよ!!」

「かあさんがルガーノに何をしたと言うわけなのよ!?かあさんがルガーノをおじさんの会社に入れたのはね、ルガーノが幸せになれるようにと思って決めたことなのよ!!おじさんの会社で働けることに感謝をしなさいよ!!」

「フザケルな!!」

あいつは、ワーッとさけびながら家中を暴れまわっていた…

(ガシャーン!!バキバキ!!ドスンドスン!!)

「何だと!!もういっぺん言ってみろ!!おじさんのカタを持ちやがって!!」

あいつのお母さまは、泣き声でこう言っていた…

「おじさんの会社をやめてしまったら、ルガーノは本当に行くところがなくなるのよ!!お給料もらえなくなってもいいの!?」

「おじさんがピンはねをしたお給料なんかは1セントもいらんわ!!何のためにオレはおじさんの会社にいたのか分からないのだよ!!フザケルな!!」

アタシはこの時、嵐がおさまるのを待ってから家を出ることにした…

それから60分後…

アタシは、嵐が去ったことを確かめたあと、私物が入っている紙袋と赤茶色のバックを持って、あいつの家を出ることにした…

室内は、ひどく荒れていて、あいつのお母さまはあいつにひどく殴られていたので、しくしくと泣いていた…

あいつは、疲れきった表情でスコッチウイスキーを水で割らずにストレートでのんでいた…

アタシは、冷めた目であいつとお母さまのぶざまになった姿をにらみつけていた…

そして…

アタシの右の薬指につけていた婚礼指輪を外して、その場に投げすてた…

指輪を投げすてたあと、ボストンバックと赤茶色のバッグを持ってあいつの家を出ていった…

アタシは、ボストンバックと赤茶色のバッグを持ってコモの街も同時に捨てて、再びミラノへ逃げ込んだ…

2030年6月1日のことであった…

再び、ミラノに逃げ込んだアタシは、セーナト通りにあるアパートへ移り住みました。

あいつとの間に生じた深い溝は、もはや修復不能におちいっていた…

ドゥオーモ広場にひとりでやって来たアタシは、この先をどのようにして生きて行こうかと途方にくれていた…

そんな時でありました。

「アリョーナ…アリョーナ…」

遠くの方で、アタシを呼ぶ声が聞こえていた…

アタシを呼んでいる声は…

誰なのかしら?

アタシがふりかえってみた時であった…

15年前に別れてそれっきりになっていたタメルランが、アタシのことを探してミラノへ来ていた…

「その声は…タメルランなの?」

15年ぶりにアタシと再会をしたタメルランは、グレーのランニングシャツとダボダボのデニムパンツとボサボサの髪の毛とサンダル姿であった…

「アリョーナ…アリョーナ…」

タメルランは、アタシをギュッと抱きしめた後、激しいキスをしていた…

この時アタシの気持ちは、タメルランと再会できたことがうれしくなっていたので、男ギライになっていたアタシの気持ちに、変化が出ていた…

タメルランは、アメリカで事件を起こして、連邦当局に拘束されたあと、不法入国でアメリカ合衆国に8年間入国禁止を受けたのと同時に、フランスのコルシカ島にある刑務所で服役をしていた…

2年前に刑期を終えたタメルランは、仮出所中であった…

今は、ミラノ市内の木工所に再就職をして、カタギになっていた…

そして、2ヶ月前に晴れて本出所となった…

それを機に、タメルランは変わろうとしていた…

その時に、アタシと再会できたので、喜びに満ちていた…

「アリョーナ…会いたかった…ずっとアリョーナに会いたかったのだよ…」

「ああ…タメルラン…」

アタシの気持ちは、タメルランの方にかたむいていたので、あいつのことはすっかり忘れていた…

タメルランと再会した日の夜のことであった…

アタシは、タメルランが暮らしているアパートの部屋で一夜を明かした…

アタシは、タメルランに抱かれて夢心地の中にいた…

「アリョーナ…」

「タメルラン…抱いて…」

タメルランは、アタシを抱きしめてキスをした…

そして、アタシの右のうなじにそっとキスをしていた…

「あっ…あん、あん、あん…」

「アリョーナ…」

「あん、タメルラン…」

アタシは、タメルランに抱かれて、夢心地におぼれていた…

そして、翌朝…

アタシは、タメルランの胸の中で目覚めた…

「アリョーナ…めざめたかな?」

「うん。」

アタシは、めざめた後もタメルランの胸の中で甘えていた…

「アリョーナ…かわいいな…」

タメルランは、ほほえみを浮かべてタメルランの胸で甘えているアタシを見つめていた…

朝食の時であった…

テーブルの上には、朝食を終えた後のブレンドコーヒーが置かれていた…

アタシとタメルランは、食後のコーヒーをのみながらこんな会話をしていた…

「オレは…あの事件のあと、FBIに逮捕されて…不法入国でアメリカ合衆国への入国禁止を受けた…さらに…ボストンのパブでの乱闘事件のこともあって…コルシカ島にある刑務所で服役をしていた…2年前に出所をして…2ヶ月前に晴れて本出所となったよ…」

「ねえ…どうしてあの時アメリカへ不法入国をしたりしたのよ?」

「アリョーナのことが好きだから…オレは…アリョーナがアメリカにいるのじゃないかと思って…アメリカに行ったのだよ。」

「タメルラン…」

タメルランは、おもむろな表情でアタシにこう言うた…

「アリョーナ…もう一度だけ…オレとやり直さないか?」

アタシは、タメルランから『やり直さないか?』と言う言葉を聞いたので、もう一度タメルランとやり直そうと決意した…

アタシとタメルランは、再会をしてから2ヶ月後に好きになった…

だから、あいつとの婚姻関係を白紙にするためにコモの市役所に離婚届を強引に出してしまいました。

その一方で、アタシにさられたあいつは、自暴自棄におちいっていたので、自分の感情のコントロールができなくなっていた…

あいつはとうとう、おじさまが経営している会社に辞表を叩きつけて、会社をやめてしまいました。

それから2日後のことでありました。

あいつのお母さまが、突然大病で倒れて、コモ市内にある救急病院に運ばれた…

あいつのお母さまは、くも膜下出血で昏睡状態におちいっていた…

あいつのお母さまは、病院に運ばれた後にICU室に運ばれて、室内に隔離された…

手術ができない…

どうすればいいのか…

あいつは、お母さまが倒れてしまったことに加えて、おじさまの会社をやめたこととアタシと離婚をしてしまったことで三重の苦しみを抱え込んでしまった…

アタシはその頃、ミラノにいてタメルランと再婚をすることを決めていたので、新生活の準備を始めていた…

だからアタシは、あいつとやり直したいとは思っていません。

アタシとタメルランは、バイト休みのあいまを利用して、ミラノ市内にある家具屋さんやブライダルショップに足を運んで、結婚生活を始める準備をしていました。

どんな結婚式をあげようか?

ふたりは、楽しくおしゃべりをしながら再婚に向けての準備を進めていた…

タメルランは、アタシと再会をしてから表情も豊かになっていたので、気持ちにゆとりが持てるようになっていた…

アタシとタメルランは、再婚後のふたりの生活の拠点を地中海に浮かぶマルタ島のヴァレッタ市へ移すことを決めました。

年が明けて、2031年1月7日のことでありました。

アタシとタメルランは、再婚後の暮らしの準備のためにミラノとマルタ島を往復して、本格的に新生活へ向けての準備を進めていました。

再婚後は、共稼ぎをして生計を立てて行くことを決めたので、バイトを探すことにも力を入れていました。

タメルランは、ヴァレッタ市内にある木工所に再就職をすることが決まりました。

アタシは、ココパッツオ(シーフードレストラン)のチュウボウにて皿洗いの仕事とフェニシアホテルマルタでアメニティの仕事をかけもちですることが決まったので、ふたりの落ち着く先は出来上がりつつありました。

新居は、ヴァレッタ市内にある小さなアパートに決まりました。

マルタで生活を始める日を、現地の祝日である3月31日の自由の日の前日までに始めることを決めたので、遅くても7日前までには準備を完了させることにしました。

時は流れて…

2031年3月24日のことでありました。

アタシとタメルランの新生活の準備が出来上がったので、ミラノを出発することにしました。

アタシは、アパートの大家さんに旅立ちのごあいさつをしたあと、タメルランと一緒にミラノ中央駅に向かおうとしていた…

(ジリリリリリン…ジリリリリリン)

この時、大家さんの部屋の黒電話がけたたましく鳴り響いていた…

大家さんはアタシに『あら、電話が鳴っているみたいねぇ…アリョーナさん、ちょっとだけ待っていてね。』と言うて、アタシに出発を待ってほしいとおねがいをした…

早くミラノ中央駅に行きたい…

列車に乗ってジェノヴァまで行って、そこからフェリーに乗ってマルタへ行きたい…

この時、アタシの気持ちはすごくあせっていた…

大家さんは、電話の受話器を手にしたあと、やさしい声でいうていた…

「はい…もしもし…○△荘はうちでございますが、どちら様でしょうか…ああ、コモ市内のルガーノさんのおじさまですね…どうもご無沙汰しています…アリョーナさんですか?まだいますけれど…お電話を代わりましょうか?」

大家さんは、アタシにあいつのおじさんから電話がかかっているから電話に出てほしいと言うていた…

しかし、アタシは『イヤ!!』と言うて、拒否した…

「イヤ!!絶対にイヤ!!あいつの家からの電話には出ないから!!」

「どうしてそんなにつっぱねるの?ルガーノさんのおじさまがアリョーナさんのことを心配してかけて下さったのにそんな言い方はないと思うわよ…」

「イヤと言うたらイヤよ!!アタシはあいつの家とはリエンしたのだから関係ないのよ!!早くマルタへ行きたいから、出発させてよ!!」

「分かっているわよぉ…せめてここを旅立つ前に、『さよなら』のひと言だけでも言うことはできないの?」

大家さんに言われたアタシは、しぶしぶとした表情で電話に出ることにした…

アタシが受話器を手にして、話をしようとした時であった…

受話器の向こう側で、あいつが激しく号泣している声が聞こえていた…

あいつが号泣している声のそばで、あいつのおじさまが沈痛な声でアタシに言うた…

「アリョーナさん…アリョーナさん聞こえるかな…ルガーノの母親が…今朝8時前に…神様のもとへ旅立っていったよ…ルガーノのことについては…もう一度働けるように…新しい就職先を探すから…アリョーナさん…ルガーノのもとへ還ってきてくれ…」

アタシは、あいつのおじに『死ねや虫ケラ!!』と怒鳴りつけたあと、受話器をガチャーンと切った…

(ガチャーン!!)

「アリョーナ、アリョーナ、どうしたのだよ。」

タメルランが心配そうな表情でアタシに呼び掛けていた…

ふたりは、大家さんにミラノ中央駅に行くことを伝えたあと、ボストンバックと赤茶色のバッグを持ってアパートから出発しようとしていた…

大家さんは、ふたりに『このままでいいのかなぁ~』とつらそうな声でいうていた…

アタシは、大家さんにこう言い返した…

「大家さん…もういいのです…アタシは…あいつとは、仲直りしません…タメルランとマルタへ行かせてください。」

アタシは大家さんに突き放す声で言った後、ボストンバックと赤茶色のバッグを持って、タメルランと一緒にミラノ中央駅へ向かいました。

ミラノ中央駅についたアタシとタメルランは、ジェノヴァ行きの列車を待っていた…

アタシはこの時、このままタメルランと一緒にマルタへ行くべきなのか?それとも、一度コモへ行くべきかを悩んでいた…

コモに行けば、またあいつと顔を合わせることになる…

あいつには会いたくない気持ちが強い中で、あいつのおじさまが『ルガーノが泣いている…』と言うのを聞いたので、気持ちがひどく動揺していた…

その時であった…

タメルランがアタシに『オレがコモまで行ってくる。』と言うて、アタシにミラノ中央駅で待つようにと言うて、どこかへ行ってしまった…

それからアタシは、数日の間待ちぼうけを食らってしまった…

タメルラン…

あんた、一体どこまで行こうとしているわけなのよ…

まさか…

コモまで行って…

あいつと…

そんな…

やめて!!タメルラン!!

取り返しがつかなくなってしまうわよ!!

早く帰ってきて!!

アタシはこの時、ひどい胸騒ぎが起きまして、気持ちがサクラン状態におちいっていた…

その頃であった…

タメルランは、コモまで行っていましてあいつと大ゲンカを起こしていた…

あいつは、タメルランにアタシを取られたことを怒っていたので、タメルランに刃物を向けて、ワーッと向かっていった…

この時、あいつのおじさまがふたりを止めに入ったけど、あいつのおじさまはあいつに刃物で一撃を喰らったあと、亡くなりました。

あいつは、殺人罪でケーサツに逮捕されてしまいました。

タメルランも、警察署に数日間拘束されて、事情聴取を受けていたので、外に出ることができずにコモ市内で足止めを喰っていた…

時は流れて…

2031年4月3日のことでありました。

アタシは、マルタへ行くことができなくなったので、途方に暮れていた…

ところ変わりまして、ドゥオーモ広場にて…

アタシは、ひとりぼっちでベンチに座って考え事をしていた…

タメルランは一体、どこへ行ったのだろうか…

タメルランはとうとう、アタシのところへ帰って来なかった…

どうしよう…

これから先、どうやって生きて行けばいいの?

そう思えば思うほど、アタシの気持ちはますます沈んで行くばかりであった…

そんな時であった…

アタシの前に、タメルランが再び現れました。

タメルランはアタシに『アリョーナ、すまない。』とひとことアタシにあやまったけど、アタシはタメルランのことを許さないと怒っていた…

「何なのかしらあんたは一体!!あんた!!昨日までの間どこまで行っていたのよ!!」

「アリョーナ…怒っているのかよぉ…」

「当たり前でしょ!!あの時、どうしてアタシを置き去りにしたのよ!?」

アタシはますます怒りっぽくなっていたので、タメルランはアタシにこう言うた…

「ルガーノのクソガキと…決闘をした…」

「タメルラン!!あんたどうしてあいつと決闘をしてゴタゴタを起こしたのよ!?あんた、また刑務所に行きたいのかしら!?何とか言いなさいよ!!」

アタシからの問いに対して、タメルランは返す言葉がなかった…

アタシは、タメルランに厳しい声で言うた…

「タメルラン!!悪いけど、アタシはもうあんたと一緒には暮らせないわ…あんたと再婚をしたいと思っていたけれど…気持ちが変わってしまったわ…タメルランのこと好きだったけど…やめるわ…アタシは、結婚には向かないやさぐれ女なのよ!!タメルランがどうしても結婚がしたいと言うのならば…別の相手を探してくれるかしら!!」

「アリョーナ、アリョーナはオレのこと…あきたと言うのかよ?」

タメルランが居直った口調でアタシに言うたので、アタシはタメルランに厳しい声で言い返した…

「何なのよ!!居直った口調でアタシに言わないでよ!!アタシは、男なんか大きらいだから、やさぐれ女として生きて行くことを決めたから!!もういいでしょ!!アタシ!!またひとり旅に出るから!!アタシが幸せになれる国を探す旅に出るから!!あんたなんか大きらい!!」

アタシは、タメルランに突き放す声で言った後、ボストンバックと赤茶色のバッグを持って、ひとりで旅に出ました。

タメルランは、だまってアタシを見送るより他はありませんでした。

アタシとタメルランが別れてから数日後のことであった…

アタシは、ジェノヴァの港にいた…

ボストンバックと赤茶色のバッグを持って、停泊しているフェリーに乗り込んだ…

アタシは、再び旅に出ることにした…

19歳の時から始まった幸せ探しの旅は、残念ながら終着駅にたどり着くことができなかった…

だから、もう一度ふりだしからやり直すことにした…

いっぱい傷ついて、いっぱい泣いて、いっぱい苦しんで…

女の幸せを探し続けていたけど、アタシがほしい幸せはどこにもなかった…

でも…

アタシは…

あきらめない…

また、ふりだしにもどってやり直せばいいのよ…

立ち止まってはいられないわ…

アタシは…

自分の足で、しっかりと歩くのよ…

アタシは、船室の窓から見える青く澄んだジェノヴァ湾を見つめながら何度も何度も言い聞かせていた…

(ボーッ!!ボーッ!!)

出船の汽笛が鳴り響いた時、船はゆっくりと岸壁から離れて行った…

船は、エーゲ海からジブラルタル海峡を経由しまして大海原へ向けて出港をした…

アタシが、本当の幸せにめぐりあって、アタシのことを心底から愛してくれる人が見つかって、プロポーズをされて、結婚が決まって…ウェディングベルを鳴らす日が来るまで…

アタシの旅は、まだまだ続くのであった…

【完】
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