【放浪恋愛】アリョーナの旅路~ソッフィオーネを鳴らすまで
第4話
アタシは、11月30日にカレの実家へ行って、カレの両親と兄夫婦に対して『カレと大ゲンカになった時にカレがアタシの右の首筋を思い切り噛んだ…ひどく傷ついた…どうしてくれるのよ!?』と大声で怒鳴りつけて大ゲンカを起こしたあと、カレの家族から50万ユーロをうばい取った…
その後、アタシは、ボストンバックと赤茶色のバッグを持って、列車に乗りましてフランスへ逃げました。
フランスへ入国した後、アタシは列車を乗り継いで、パリを目指した…
そして、7日後の12月8日に花の都・パリに到着した…
アタシは、ボストンバッグと赤茶色のバッグを持ってパリの中心部のオルテルリッツ駅に降り立ちました。
パリに着いたアタシは、この先どうして行こうか途方に暮れていた…
カレの家族からぶん取った50万ユーロで、どうやって暮らして行こうか…
アタシは、そんなことを思いながら駅から歩いてセーヌ河沿いの通りを一人で歩いていた…
アタシは、途中のベルシー公園に立ち寄りました。
アタシは、公園のベンチにひとりで座ってぼんやりと考え事をしていた…
公園には、たくさんのカップルさんや家族連れの人たちが来ていた…
アタシはこの時、5ヶ月前に別れたタメルラン(元カレ)のことを思い出していた…
タメルランは、グロズヌイに帰った後どこで何をしているのだろうか…
もしも、どこかで元気で暮らしているのならば、アタシに知らせてほしい…
そればかりが、とても気がかりであった…
そんなことよりも、まず生きて行くためには、バイトを探すことから始めないと…
そして、新しい住まいを確保しなければ…
立ち止まって、悩んでいるヒマなんか1分もないわ…
そんな時でありました。
「やだー、アリョーナじゃない。どうしたのよ一体?」
この時、アタシがハバロフスクのハイスクール時代の仲良しで、ソルボンヌ大学に留学中のナスティアと再会をしました。
「ナスティア…ああよかったわ…会いたかったわ。」
「アリョーナ、一体どうしたのよ?」
ナスティアは、つらそうな表情をしていたアタシをセーヌ河沿いのプレシダン・ケネディ大通りにあるアパートへ連れて行きました。
ナスティアが暮らしているアパートの一室に着いたアタシは、足をのばしてのんびりとしていた…
ナスティアが暮らしている部屋は2LDKの8畳ひとまの部屋で、キッチンとシャワー室とトイレがついていて、居間には大画面の地デジテレビとブルーレイレコーダーと高級家具にキッチンの道具など何から何までそろっていた…
部屋の窓からは、エッフェル塔がすぐ近くに見えていた…
ナスティアは、実家から毎月3万ルーブルの仕送りを受けながらソルボンヌ大学へ通っていた…
ナスティアは、大学へ行ってどんな勉強をしているのだろうか…
大学に行ったら、すてきなボーイフレンドが何人いるのだろうか…
いいな…
ナスティアは…
うらやましいわ…
キッチンから出てきたナスティアは、コーヒーとモンブラン(チョコケーキ)を持って、アタシにコーヒーとケーキを差し出した…
「アリョーナ、コーヒーが入ったわよ…はい、モンブランも…」
「ありがとう。」
アタシは、ナスティアから差し出されたケーキをひとくち食べた…
ナスティアは、コーヒーカップに入っている角砂糖をいれて、スプーンでかきまぜながらアタシにこう言った…
「アリョーナ…あんたどうしたのよ?ハバロフスクにある女子大に行ってたよね…ねえアリョーナ。」
「大学…やめた…ううん、家族が勝手に退学の手続きを取ってしまったのよ…」
「どうして大学をやめたりしたのよ?」
「どうしてって…」
アタシは、コーヒーをひとくちのんでから、ナスティアに大学をやめた理由を言うた…
「一番上の兄が…顧客から預かった預り金を…勝手に持ち出して…ウラジオストクまで行って…サウナ店に…入り浸りになっていた…あげくの果てに…一番上の兄は…サウナの女と逃げて、行方不明になってしまったのよ…そのことが原因で、アタシは女子大をやめさせられたのよ…お見合い相手の家の人が…4000万ルーブルをユウヅウして下さったのよ…おカネのことがあったから…アタシは…父親が決めた相手と…」
「お見合いをさせられたと言うことなのね。」
「うん。」
ナスティアは、コーヒーをひとのみしてからアタシに言うた…
「アリョーナ…あんた…右の首筋に歯形がついているけれど…どうしたのよ…その傷…」
アタシは、ナスティアから右の首筋についている歯形のことについて聞かれたので、気持ちが動揺していた…
あの日…
タメルランと別れたことと、両親が決めた結婚相手との挙式披露宴のことで気持ちがギスギスしている時に…
ガラの悪い男たちに集団でレイプされた時に、リーダーの男に右の首筋を思い切り噛まれた時にできた傷…
…だと言うことなど口が避けても言えない…
あの時に受けた恐怖が、アタシの中で再びよみがえっていたので、アタシは気持ちはサクラン状態におちいってしまった…
やめて!!
離して!!
離して!!
「アリョーナ…アリョーナ…一体どうしたのよ?」
アタシは、ナスティアに言われたので、はっとわれに返った…
「アリョーナ…一体どうしたのよ?」
アタシは、ナスティアに右の首筋の傷のことを言うた…
「あのね…右の首筋の傷のことだけど…」
アタシは、コーヒーをひとくちのんでからナスティアにわけを話した…
「あのねナスティア…ハバロフスクを飛び出した後…シベリア鉄道に乗って…モスクワを経由してサンクトペテルブルグまで行ったの…サンクトペテルブルグのピロシキカフェでバイトをしていた時に知り合ったドイツ人の男の人と知り合って…お付き合いをして…そして…フライグブルグで結婚をしたのだけど…ヒモだったのよ…その時に…ダンナと大ゲンカになって…」
「その時に、ダンナからのDVで…首筋を思い切り噛まれたのね。」
「うん。」
「それで、あんたは結局どうしたのよ?」
「ダンナの実家に怒鳴りこんで…50万ユーロをぶん取って来たわ…だけど…アタシの怒りはまだおさまっていないのよ!!…アタシが生きている限りは…ダンナのことを一生うらみ通すから!!」
「そんなことがあったのだ。アリョーナ…」
アタシは、別れたダンナのことを思い出しただけでも悔しくて悔しくてたまならなかった…
どんなにたくさん涙を流しても、アタシの気持ちがいやされることはなかった…
もうたくさん…
結婚なんかはしたくないわ…
アタシはこの時、結婚よりもまずはバイトとアパートを探すことから始めなくてはならなかったので、悩んでいるヒマは1分もありませんでした。
アタシは、12月10日に市内第2区のモンコルトル通りにあるアパートを借りて、そこから再出発しました。
アタシは、オスマン大通りにあるプランタンパリタカシマヤに再就職をして、新たな一歩をふみだそうとしていました。
しかし…
アタシは、初日から大きくつまずいてしまいました。
お得意様・上得意様のお客様相手のお仕事なので、アタシにとっては分からないことだらけだから、四苦八苦をしていた…
会社の人から『あなたはここはしなくてもいいから。』とか『上得意様が来るから…』などとこまごまと言われていたので、仕事をさせてもらえなかった…
アタシは、再就職をしてからたった数時間で早々とリタイアしてしまった…
アタシは、人事担当の人に『一身上の都合で…』と言うてすぐにやめてしまった…
そのまた次の日から、アタシはバイトを探し直すことにした…
しかし…
パリ市内を歩き回って、バイトを探してみたけれど、アタシの身丈に合うバイトはなかなか見つからずに苦しんでいた…
12月17日に、アタシはサン・ジュルコン・デープレ教会の近くにあるクルス・ドゥ・パリ・マビョンエスパス・ピザ(ピザ屋さん)に行って、ナスティアと会っていた…
ふたりで5ユーロのピザセットを注文して、ランチを摂りながらこんな会話をしていた…
「デパートの仕事を、1日でやめちゃったの?」
「うん。」
「どうしてやめたりなんかしたのよ?」
「どうしてって、上得意さんのお客様とか…お得意様のお客様相手の仕事は…アタシには向いていないのよ…とにかく、頭の痛いことばかりが多すぎるから、正直言ってしんどいのよ…」
「困ったわねぇ…」
「あのねぇ…アタシはチュウボウで食器洗いとかデスクワークなどの…お客様と合わない仕事しか知らないのよ…ナスティアは、なれない仕事でも少しずつなじんで行けばいいのじゃないと言うけれど…ああ…頭がゴチャゴチャしてきたわ…」
アタシは、ミニッツメイド(果汁エード)の350ミリ缶のジュースをゴクゴクとのんで、大きくため息をついてから、ナスティアにこう言った…
「あのねナスティア…アタシね…正直言ってね、パリに来るのじゃなかったと思っていたところなのよ。」
「アリョーナ、それじゃあ聞くけれど、この先どうやって行くのよ?他に行くところはあるの?」
「ないわよ。」
「ないわよって…それじゃあ、アリョーナはこの先どうやって生きて行くのよ?」
「アタシね…この際だから…ハバロフスクへ帰ろうかと思っているのよ。」
「ハバロフスクに帰るって…あんた本気なの?」
「だって…パリにいたとしても、アタシの身丈に合う職業がないのよ…かといって、ブラブラしているわけにも行かないし…いっそのこと、今日中にパリから出発しようかなと思っているのよ。」
「ちょっとアリョーナ、今日中にパリを出発して、列車の乗り継ぎを続けてハバロフスクまで行くと言うけれど…今の時間帯に出発をしたらハバロフスクには1ヶ月後に到着をするのよ…それでもいいの?」
ナスティアからの問いに対して、アタシはこう答えた…
「それでもいいわよ。」
「アリョーナ。」
「アタシはね…よく考えてみたら…会社づとめができない女だから…結婚をするより方法がないのよ…ナスティアはいいわよ…大学に行ってやりたいことがたくさんあるし…大学に行けばボーイフレンドもたくさんいるし…アタシは何をやっても失敗つづきだからダメ女なのよ…ひとりで生きて行く力もないし…」
「だからってアリョーナ、あんたカンタンに人生をあきらめるわけなの?」
「仕方がないわよ。アタシは神さまに見離されたのよ。」
「それじゃあアリョーナ、アリョーナが以前付き合っていたタメルランとどうして別れたりしたのよ!?」
「どうしてって…カレの家の家族からアタシとタメルランの結婚を猛反対されたのよ!!できるわけなんかないわよ!!」
「アリョーナ。」
アタシは、別れたタメルランのことをナスティアから言われたので、ますます気持ちが煮えてしまった…
「タメルランのことを言うのはやめて!!タメルランのことは…とっくに忘れたのよ!!」
「アリョーナ。」
「タメルランは…グロズヌイに帰って、家族を助けるために…大学をやめて働いているのよ…母親が大病で倒れて…父親も無職で…ちいさいきょうだいたちがお腹をすかせているのよ…そんな中でタメルランは、一生懸命になって家族を助けようと必死になっているのに…そんな中で、アタシがタメルランに会いに行ったら…冷たくあしらわれるだけよ…」
アタシはこう言った後、大きくため息をついていた…
ナスティアは『タメルランには会いたくないのね。』と語気を弱めてアタシに言った…
アタシは、タメルランと別れてからギスギスした気持ちを抱えて生きていたので、何をやってもうまくは行かないと思っていた…
パリにもいづらくなってしまった…
しかし、ハバロフスクに帰っても居場所なんてあるわけない…
アタシは、この先どのようにして生きて行けばよいのかわからなくなっていた…
アタシは、そんなやりきれぬ思いを抱えたまま2012年を迎えた…
アタシは、市内の第10区にあるレピュブリックのクロードヴェルフォー大通りにあるアパートに住まいを変えました。
バイト先は、朝は7時から10時までサンルイ病院でリネンの仕事をして、午後1時から4時までは区役所でショムの仕事をして、夜の6時から9時まではタンプル大通りにあるないとパブのお仕事と…3つのバイトをかけもちしてお給料を稼いでいた…
月給は、合わせて7000ユーロであった…
その中から、アパートの家賃500ユーロを払っていた…
そして、残った分で食費などの諸々の生活費などにふりわけていた…
そして、残りの2000ユーロを毎月少しずつ貯金をして、女ひとりで生きて行くための備えを作っていました。
今はとにかく、生きて行くために働かなくては…
アタシは、そう思いながら日々の暮らしを送っていました。
そしてまた、時は流れて…
2012年4月2日の午後2時頃でありました。
アタシは、区役所にてショムの仕事をしていた…
アタシは、キャタツを使って掲示板のポスターを新しいのに貼り替える仕事をしていた…
アタシは、古いポスターを止めているピンを外して、新しいポスターに貼り替える仕事をしていた…
その時に、足場が少し不安定になっていたので、キャタツがグラグラと揺れてキャタツから落ちそうになっていた…
「あぶない!!」
アタシがキャタツから落ちそうになっていた時に、通りかかった区役所の男性職員に助けられた…
「大丈夫かな?」
「ええ…アタシは大丈夫よ。」
「足場が悪いようだね…怖かったよね…落ちそうになって。」
「うん、怖かったわ…でも助けてくれてありがとう…」
「よかった。」
「助けてくれてありがとう…アタシの名前はアリョーナよ。」
「アリョーナさんですね…ぼくの名前はフィリップです。」
「フィリップさんね。」
アタシを助けて下さった男性職員さんは、フィリップさんと言う26歳の男性でありました。
アタシは、フィリップさんに一目惚れをしたので、3番目の恋が始まろうとしていた…
それから2日後のことでありました。
アタシは、夕方4時に区役所の仕事が終わったので、空いた時間を利用して、近くにあるタンプル公園へ行きました。
アタシは、ベンチに座ってお昼に食べようと思っていたサンドイッチで遅いランチを摂っていた…
その時に、アタシはフィリップさんと再び会いました。
「フィリップさん。」
「アリョーナさん。」
「おとといは、助けてくれてありがとう…もう少しでアタシ…」
「いえいえ…アリョーナさんは、いつもここでごはんを食べているのかな?」
「そうよ…今は…お昼に食べようと思っていたサンドイッチ屋さんで買ったサンドイッチを食べそこねてしまったから…遅い夕食を食べているのよ。」
「ランチと夕食がごっちゃになってしまったのか…」
アタシは、サンドイッチを食べ終えた後、フィリップさんにこう言いました。
「ねえ、フィリップさん。」
「なあに?」
「こんなことを聞くのもなんだけど、フィリップさんには、好きな恋人さんはいるのかな?」
「えっ?」
フィリップさんは、アタシからの問いに対してビックリしていた…
フィリップさんは、少し落ち着きを取り戻したあと、アタシにこう言うた…
「ぼくに…好きなカノジョは…いないよ。」
「いないの…」
「うん。」
「アタシね…実を言うとね…」
アタシはこの時、思いきってフィリップさんに告白をしようとしていた…
しかし、告白しようと思っていたら言葉が出なかったので、苦しんでいた…
「どうしたのかな?」
「ああ、何でもないわよ。」
「変なの…」
フィリップさんは、少しがっかりした表情になっていた…
それでもアタシは、もう一度勇気を震い立たせてフィリップさんに告白をしてみた…
「フィリップさん…あのね…アタシ…あっ、アタシ…」
「アリョーナさん、もしかして…ぼくのことが好きになったのかな?」
「えっ?」
アタシがフィリップさんに告白をする前に、フィリップさんが真っ先にアタシに告白をした…
「ぼく…アリョーナさんのことが気になってしまったのです…何なのだろう…知らないうちに…アリョーナさんのことが…好きになってしまった…」
アタシは、フィリップさんからの告白を聞いたので、乳房(むね)の奥がキュンとしていた…
フィリップさんは、アタシに恋人になってほしいとおねがいをしていた…
「アリョーナさん…ぼくの恋人になってください。」
アタシはフィリップさんからの告白を聞いた時、乳房(むね)の奥がしめつけられるほど苦しくなっていた…
「フィリップさん。」
「アリョーナさん…ぼくは…アリョーナさんのことが…大好きなのです。」
アタシはこの時、フィリップさんのトリコになっていた…
そしてこの瞬間に、アタシの3番目の恋が始まりました。
アタシとフィリップさんは、2012年の4月8日の復活祭の日に最初のデートをしました。
アタシは、朝方のリネンの仕事を終えた後、フィリップさんとの待ち合わせ場所である地下鉄ゴンクール駅へ行きました。
アタシのデート着は、上は白色でリップサービスのロゴが入っているTシャツの上から黒のレースのジャケットをはおりまして、下はデニムのスカートで、足元にはかわいいサンダルをはいて、白のぼうしをかぶりまして、赤茶色のバッグを持って待ち合わせの場所へ行きました。
地下鉄ゴンクール駅にて…
フィリップさんは、アタシよりも30分早く待ち合わせの場所に到着をしていて、アタシがくるときをを待っていた…
「フィリップさんお待たせ…待った?」
「ぼくも、今来たところだよ。」
「よかったわ…ねえ、どこへデートに行く?」
アタシとフィリップさんは、地下鉄に乗って中心部のルーブルまで行きました。
ふたりの最初のデートは、軽めにチェイルリー公園に行って、のんびりと腕を組んで公園内を散策しました。
2回目以降は、ルーブル美術館へ行って、絵画を鑑賞したり、朝のバイトがお休みの時はマルシェ(バザール)に行って、新鮮な食材の買い出しをした後にフィリップさんの部屋に行って、ふたりでクッキングを楽しんだりするなどして愛を深めて行きました。
アタシとフィリップさんがお付き合いを始めてから3ヶ月が経過した頃でありました。
この時ふたりは、結婚を意識するようになっていたので、あとはフィリップさんからのプロポーズを待つのみとなっていた…
時は流れて…
7月14日の革命記念日に、アタシとフィリップさんはシャンゼリゼ大通りにあるフーケッツ(カフェテリア)に行って、19ユーロのチキンのクラブサンドイッチと8ユーロのブレンドコーヒーを頼んで、ランチを摂っていた…
ランチを摂った後、ふたりはコーヒーをのみながらお話しをしていた…
「アリョーナ…今日はアリョーナに話があるのだけど…聞いてくれるかな?」
「フィリップさん。」
フィリップさんはアタシにこう言った後、バッグの中から小さな箱を取り出した…
フィリップさんは、小さな箱のふたをアタシの前で開けた…
箱の中に入っていたのは、カメリアダイヤモンドのエンゲージリングであった…
フィリップさんは、アタシの右の薬指にエンゲージリングをつけた後、アタシにプロポーズの言葉を伝えていた…
「アリョーナ…ぼくの妻になってほしい…ぼくは…アリョーナしか愛せない…」
「フィリップさん…」
アタシは、フィリップさんのプロポーズの言葉を聞いた瞬間に、涙がポロポロとこぼれていた…
うれしい…
フィリップさんからプロポーズをされたアタシは、フィリップさんとの結婚することを決めました。
今度は…
本当に幸せになる…
ううん…
今度こそは、結婚生活を長続きできるように努力するわ…
アタシは、何度も何度も繰り返して自分自身に言い聞かせていた…
7月21日、アタシとフィリップさんはバスティーユにあるノートルダム・デスペテンス教会にて、ふたりきりで結婚式を挙げた…
その後ふたりは、住まいを第4区にあるフラン・プルジョウ通りにある家賃25ユーロの2階建ての一戸建ての借家で暮らすことにしました。
家具や家電製品は、区役所の同僚さんたちのご厚意で使い古しの家具と中古でまだ使える家電製品をいただいたので、出費を抑えることができました。
今度こそは、結婚生活を長続きさせたい…
…と思っていた矢先に、思わぬトラブルに巻き込まれてしまいました。
結婚式から三日後の7月24日のことでありました。
アタシとフィリップさんが暮らしている家に、フィリップさんの出身地のコートダジュールからフィリップさんの両親と無職の妹さん(18歳)が、何の知らせもなく突然家に転がり込んできました。
転がり込んできた理由は、フィリップさんのお父さまが保証人になっている友人の借金700万ユーロが払えなくなってしまったので家を差し押さえられたので、居場所がなくなったと言うてアタシとフィリップさんに助けを求めて来ました。
フィリップさんの両親と妹さんは最初はリヨン郊外で暮らしている長男夫婦または、次男夫婦の家に行こうと思っていたけど、どちらも断られてしまったので、仕方なくアタシとフィリップさんを頼ってきたと言うことであった…
ふたりきりで暮らして行こうねと約束をしたと言うのに、突然フィリップさんの両親と妹さんが転がり込んできたので、アタシのいらだちは少しずつ高まっていた…
次の日の朝、アタシはバイトに行く時にフィリップさんに思い切り怒鳴りつけました。
「あんたね!!約束がゼンゼン違うじゃないのよ!!ふたりきりで暮らして行こうねと言うたのに、ウソをつかれたからアタシは思い切りキレているのよ!!」
「ウソじゃないよぉ…」
「それじゃ、どうしてあんたの両親と妹さんが突然うちに転がり込んできたのよ!?」
「オフクロとオヤジと妹は他に行くところがないのだよぉ…分かってくれよぉ…なあアリョーナ…」
「甘えないでよね!!あんたはアタシが何で怒っているのかが分かっていないみたいね!!何なのよ一体もう!!リヨンにいるあんたの兄夫婦二組に断られたから仕方なくこっちに来た…あんたの兄夫婦は困っている人を突き放すような冷たい人間だと言うことがよーく分かったわよ!!サイアク!!アタシまた、結婚相手を選び間違えたわ!!」
「だからさ…一番上の兄貴夫婦も二番目の兄貴夫婦も…どちらも娘の結婚問題で頭を痛めているからエンリョしているのだよ…」
「いいわけばかりを言わないでよ!!なんなのかしらあんたはもう!!どこのどこまでなさけない男なのかしら!!」
「オフクロはパートに出ると言っているのだよ…オヤジが働けないから…」
「キーッ!!ますますイラつくわね!!甘ったれるのもいいかげんにしなさいよバカダンナ!!アタシはね!!プータローのあんたの父親と妹のメンドーなんて一切みないから!!プータローの父親と妹さんのメンドーみるのは、あんたの役目でしょ!!今日中にお父さまと妹さんを殴り付けて、目を覚ませと怒鳴りつけて就職させなさいよ!!」
「無理だよぉ…オヤジはともかく…妹はハイスクールを長期間休みがちになった挙げ句に休学が…」
「いいわけなんか聞きたくないわよ!!今日じゅうにお父さまと妹さんを力で押さえ付けて就職させなさいよ!!それができないのであればあんたとは離婚するから!!アタシは本気だから、覚悟しておきなさいよ!!」
アタシはフィリップさんと大ゲンカをした後、赤茶色のバックを持ってバイトに出かけました。
フィリップさんのお父さまと妹さんは、あの日を境にして家にこもりきりになってしまいました。
そのために、アタシとフィリップさんとフィリップさんのお母さまで生活費を稼ぐことになりました。
3人お給料は、アタシが7000ユーロで、フィリップさんのお母さまが4000ユーロがやっとであるのに対して、フィリップさんが一番高く2万ユーロでありました。
3人の収入の合計は3万1000ユーロでありますが、生活が苦しいことに変わりはありませんでした。
フィリップさんのお父さまは、若いときにだいぶ無理をして体が弱っていたのであまり強くは言えませんが、問題はフィリップさんの妹さんの方にありました。
フィリップさんの妹さんは、ガッコーへ行きたいとか再就職をしたいと言う気持ちが薄れていたので、完全に無気力の状態になっていました。
フィリップさんの妹さんは、ことあるごとにアタシやフィリップさんのお母さまからおカネをセビリに来ていたので、すごく困っていました。
どうすれば、フィリップさんのお父さまと妹さんはやる気を出してくれるのだろうか?
アタシは、そんなことばかりを思うようになっていたので、悲鳴をあげていました。
それから15日後の8月15日のことでありました。
夕方6時頃に、フィリップさんがすごくイライラした表情で家に帰ってきました。
フィリップさんは、区役所から職員のお給料が9月分から2割カットされると言う知らせを聞いたので、表情がすごくイライラしていました。
区役所側の説明によると、職員さんたちのお給料の2割カットの理由は『経費の節約』と言うだけであって、詳しい理由につきましては一切言いませんでした。
しかも、区役所の役員の説明の仕方があまりにも頭ごなしに言う口調だったので、フィリップさんをはじめとしました区役所の職員さんたちは『役員はふざけたことを言っているようだ!!職員さんたちに経費の節約を押し付けておいて、区長や役員たちはゼータクザンマイの日々を送っているのだろ!!』と怒っていました。
フィリップさんは『これから先どうやって生きて行けばよいのか分からない…』と頭を抱えて悩んでいた…
9月分からは収入が減ってしまうので、生活はますます苦しくなって行こうとしていました。
アタシは区役所のショムのバイトをやめて、バイトをひとつ減らしたので、アタシの収入は4670ユーロに減少しました。
フィリップさんのお母さまも体調を崩していたので、1日3時間の就労に減らして負担を軽減していましたが、生活はいっそう苦しくなっていました。
そんな時にまた、新たな問題が発生しました。
家にこもりきりになっているフィリップさんのお父さまと妹さんが、毎日のようにテレビのチャンネル権争いを繰り返していました。
チャンネル争いは、朝の9時から夕方の4時の間にいつも発生していた…
家に帰ってくると、妹さんが『アタシが見たい韓流ドラマがあるのにお父さまがチャンネルをゆずってくれない!!』と言う言葉に対しまして、お父さまは『ワシはテレビを見ることが楽しみなのにィ…』と口をへの字に曲げて言い返す大ゲンカを繰り広げていた…
アタシは、ふたりのチャンネル争いを聞いてブチ切れていたので、テレビのコンセントをぬいてしまった…
この時に、フィリップさんのお父さまが泣きそうな声で『何でそんなひどいことをするのだよぉ…』とアタシに言ってきたので、アタシはこぶしをふりあげて、フィリップさんのお父さんを思い切り怒鳴りつけていた…
「あんたたちね!!いつまで下らないチャンネル争いを繰り返しているのよ!!チャンネル争いをしているヒマがあるのだったら、外へ出てまじめにシューカツをしなさいよ!!アタシは思い切りキレているのよ!!」
アタシの言葉に対して、フィリップさんの妹さんは逆ギレを起こしていた…
「義姉(ねえ)さん!!あんまりだわ!!アタシはね!!テレビがないと生きて行けないのに…ひどいわ!!」
「あんたね!!いつまで甘ったれたことを言っているのよ!!あんたの同級生のコたちは一生懸命になってハイスクールに行って、勉強をして、大学に行くことや今後の進学のことなどで頭がいっぱいになっているのに…どうして学校に行かないのよ!!アタシとお兄さんとお母さまが一生懸命になって外へ出て働いているのだから、あんたもガッコーに行きなさいよ!!明日からガッコーに行きなさいよ!!」
「義姉さんこそ何よ!?義姉さんこそえらそうなことばかり言わないでよ!!義姉さんは、ハイスクールを卒業できたからえらいと言いたいわけなのね!!ふざけたことを言わないでよ!!」
「キーッ!!何なのよ!?もう許さないわよ!!」
アタシはとうとう、フィリップさんの妹さんとドカバキの大ゲンカを起こしてしまった…
今回の一件で、アタシはフィリップさんの家族との人間関係が一気に気まずくなってしまいました。
そして、その日の夕方5時半頃のことでありました。
食卓には、フィリップさんとフィリップさんの両親と妹さんが座っていました。
テーブルの上には、クイック(ベルギーに本店があるハンバーガーのファストフードチェーン)の1個5ユーロのハンバーガーとミニッツメイドの缶ジュースだけであった…
フィリップさんのお父さまは、泣きそうな声で『ハンバーガー1個だけかよぉ~アリョーナさんの手料理が食べたいよぉ…』と言うたので、フィリップさんのお母さまは怒り気味の声でこう言うた…
「あんたね!!友人知人の借金やクレジットの保証人を引き受けたからこうなってしまったのでしょ!!アリョーナさんがどんな思いをして怒っているのか分かっているの!?」
「何だよその言い方は…優しくしてくれよぉ…」
アタシはこの時、ナイトクラブのバイトに行く準備を終えて出かけるところであったので、行く前にフィリップさんたちに怒鳴りつけていた…
「あのね!!ハンバーガー1個だけでも!!食べる物があるだけでも幸せだと想いなさいよ!!文句を言うのなら食べないでよ!!」
アタシは、フィリップさんたちを怒鳴りつけた後にバイトに出かけていった…
アタシが出かけた後、食卓はどんよりとよどんでいた…
それからまた5日後のことでありました。
フィリップさんのお父さまがタンブル通りにあるナイトパブに入り浸りになっていて、一晩中家に帰らない時が多くなっていた…
事件は、その翌日に発生しました。
8月4日、フィリップさんのお父さまが複数のナイトパブのノミ代の合計1万8000ユーロのツケがあったことが発覚した…
アレコレと切り詰めて、質素倹約でお金を使っていると言うのに…どうしてなのよ…
アタシだけではなく、この時はフィリップさんとフィリップさんのお母さまと妹さんもカンカンに怒っていた…
それから2日後、うちにナイトパブのオーナーさま5~6人が押しかけてきて、アタシたちにお父さまがためていたノミ代のツケ合わせて1万8000ユーロを払えと言いに来た…
アタシとフィリップさんのお母さまは、泣く泣くお父さまのノミ代のツケ合計1万8000ユーロを払ったけど、アタシとフィリップさんとフィリップさんの親きょうだい親族との人間関係はますます険悪になっていた…
それから20日後の8月27日のことでありました。
フィリップさんは、家族間のもめ事が深刻になったことを苦に家出して行方不明になりました。
フィリップさんのお父さまは、フィリップさんがいなくなった、気落ちをしていた…
その上にまた、虫の知らせが入ってきた…
フィリップさんが家出をした同じ日の正午前に、フィリップさんのお母さまがパート先の職場で倒れた…
フィリップさんのお母さまは、救急車でノートルダム橋の近くにある私立病院に緊急搬送された…
フィリップさんのお母さまは、病院に搬送された後に集中治療室にカクリされた…
フィリップさんのお母さまはくも膜下出血を起こしていて、危険な状態におちいっていた…
フィリップさんのお父さまと妹さんは、どうすることもできずにしくしくと泣いてばかりいる…
アタシはこの時、フィリップさんのお父さまと妹さんに思い切りキレていた…
何なのかしら一体もう…
どうして、自分たちの力で困難を乗りきろうとしないかしら…
情けないわね!!
アタシはこの時、フィリップさんと離婚をしようと決意した…
アタシは、フィリップさんのお父さまと妹さんがしくしく泣いている間に、荷物の整理をして家を出る準備をしていた…
これ以上フィリップさんの家にいれば、アタシはフィリップさんの家に殺されてしまう…
アタシは、強い危機感を募らせていた…
荷物の整理が終わった後、アタシはボストンと赤茶色のバッグを持って、フィリップさんの家から逃げ出した…
その後、アタシは、ボストンバックと赤茶色のバッグを持って、列車に乗りましてフランスへ逃げました。
フランスへ入国した後、アタシは列車を乗り継いで、パリを目指した…
そして、7日後の12月8日に花の都・パリに到着した…
アタシは、ボストンバッグと赤茶色のバッグを持ってパリの中心部のオルテルリッツ駅に降り立ちました。
パリに着いたアタシは、この先どうして行こうか途方に暮れていた…
カレの家族からぶん取った50万ユーロで、どうやって暮らして行こうか…
アタシは、そんなことを思いながら駅から歩いてセーヌ河沿いの通りを一人で歩いていた…
アタシは、途中のベルシー公園に立ち寄りました。
アタシは、公園のベンチにひとりで座ってぼんやりと考え事をしていた…
公園には、たくさんのカップルさんや家族連れの人たちが来ていた…
アタシはこの時、5ヶ月前に別れたタメルラン(元カレ)のことを思い出していた…
タメルランは、グロズヌイに帰った後どこで何をしているのだろうか…
もしも、どこかで元気で暮らしているのならば、アタシに知らせてほしい…
そればかりが、とても気がかりであった…
そんなことよりも、まず生きて行くためには、バイトを探すことから始めないと…
そして、新しい住まいを確保しなければ…
立ち止まって、悩んでいるヒマなんか1分もないわ…
そんな時でありました。
「やだー、アリョーナじゃない。どうしたのよ一体?」
この時、アタシがハバロフスクのハイスクール時代の仲良しで、ソルボンヌ大学に留学中のナスティアと再会をしました。
「ナスティア…ああよかったわ…会いたかったわ。」
「アリョーナ、一体どうしたのよ?」
ナスティアは、つらそうな表情をしていたアタシをセーヌ河沿いのプレシダン・ケネディ大通りにあるアパートへ連れて行きました。
ナスティアが暮らしているアパートの一室に着いたアタシは、足をのばしてのんびりとしていた…
ナスティアが暮らしている部屋は2LDKの8畳ひとまの部屋で、キッチンとシャワー室とトイレがついていて、居間には大画面の地デジテレビとブルーレイレコーダーと高級家具にキッチンの道具など何から何までそろっていた…
部屋の窓からは、エッフェル塔がすぐ近くに見えていた…
ナスティアは、実家から毎月3万ルーブルの仕送りを受けながらソルボンヌ大学へ通っていた…
ナスティアは、大学へ行ってどんな勉強をしているのだろうか…
大学に行ったら、すてきなボーイフレンドが何人いるのだろうか…
いいな…
ナスティアは…
うらやましいわ…
キッチンから出てきたナスティアは、コーヒーとモンブラン(チョコケーキ)を持って、アタシにコーヒーとケーキを差し出した…
「アリョーナ、コーヒーが入ったわよ…はい、モンブランも…」
「ありがとう。」
アタシは、ナスティアから差し出されたケーキをひとくち食べた…
ナスティアは、コーヒーカップに入っている角砂糖をいれて、スプーンでかきまぜながらアタシにこう言った…
「アリョーナ…あんたどうしたのよ?ハバロフスクにある女子大に行ってたよね…ねえアリョーナ。」
「大学…やめた…ううん、家族が勝手に退学の手続きを取ってしまったのよ…」
「どうして大学をやめたりしたのよ?」
「どうしてって…」
アタシは、コーヒーをひとくちのんでから、ナスティアに大学をやめた理由を言うた…
「一番上の兄が…顧客から預かった預り金を…勝手に持ち出して…ウラジオストクまで行って…サウナ店に…入り浸りになっていた…あげくの果てに…一番上の兄は…サウナの女と逃げて、行方不明になってしまったのよ…そのことが原因で、アタシは女子大をやめさせられたのよ…お見合い相手の家の人が…4000万ルーブルをユウヅウして下さったのよ…おカネのことがあったから…アタシは…父親が決めた相手と…」
「お見合いをさせられたと言うことなのね。」
「うん。」
ナスティアは、コーヒーをひとのみしてからアタシに言うた…
「アリョーナ…あんた…右の首筋に歯形がついているけれど…どうしたのよ…その傷…」
アタシは、ナスティアから右の首筋についている歯形のことについて聞かれたので、気持ちが動揺していた…
あの日…
タメルランと別れたことと、両親が決めた結婚相手との挙式披露宴のことで気持ちがギスギスしている時に…
ガラの悪い男たちに集団でレイプされた時に、リーダーの男に右の首筋を思い切り噛まれた時にできた傷…
…だと言うことなど口が避けても言えない…
あの時に受けた恐怖が、アタシの中で再びよみがえっていたので、アタシは気持ちはサクラン状態におちいってしまった…
やめて!!
離して!!
離して!!
「アリョーナ…アリョーナ…一体どうしたのよ?」
アタシは、ナスティアに言われたので、はっとわれに返った…
「アリョーナ…一体どうしたのよ?」
アタシは、ナスティアに右の首筋の傷のことを言うた…
「あのね…右の首筋の傷のことだけど…」
アタシは、コーヒーをひとくちのんでからナスティアにわけを話した…
「あのねナスティア…ハバロフスクを飛び出した後…シベリア鉄道に乗って…モスクワを経由してサンクトペテルブルグまで行ったの…サンクトペテルブルグのピロシキカフェでバイトをしていた時に知り合ったドイツ人の男の人と知り合って…お付き合いをして…そして…フライグブルグで結婚をしたのだけど…ヒモだったのよ…その時に…ダンナと大ゲンカになって…」
「その時に、ダンナからのDVで…首筋を思い切り噛まれたのね。」
「うん。」
「それで、あんたは結局どうしたのよ?」
「ダンナの実家に怒鳴りこんで…50万ユーロをぶん取って来たわ…だけど…アタシの怒りはまだおさまっていないのよ!!…アタシが生きている限りは…ダンナのことを一生うらみ通すから!!」
「そんなことがあったのだ。アリョーナ…」
アタシは、別れたダンナのことを思い出しただけでも悔しくて悔しくてたまならなかった…
どんなにたくさん涙を流しても、アタシの気持ちがいやされることはなかった…
もうたくさん…
結婚なんかはしたくないわ…
アタシはこの時、結婚よりもまずはバイトとアパートを探すことから始めなくてはならなかったので、悩んでいるヒマは1分もありませんでした。
アタシは、12月10日に市内第2区のモンコルトル通りにあるアパートを借りて、そこから再出発しました。
アタシは、オスマン大通りにあるプランタンパリタカシマヤに再就職をして、新たな一歩をふみだそうとしていました。
しかし…
アタシは、初日から大きくつまずいてしまいました。
お得意様・上得意様のお客様相手のお仕事なので、アタシにとっては分からないことだらけだから、四苦八苦をしていた…
会社の人から『あなたはここはしなくてもいいから。』とか『上得意様が来るから…』などとこまごまと言われていたので、仕事をさせてもらえなかった…
アタシは、再就職をしてからたった数時間で早々とリタイアしてしまった…
アタシは、人事担当の人に『一身上の都合で…』と言うてすぐにやめてしまった…
そのまた次の日から、アタシはバイトを探し直すことにした…
しかし…
パリ市内を歩き回って、バイトを探してみたけれど、アタシの身丈に合うバイトはなかなか見つからずに苦しんでいた…
12月17日に、アタシはサン・ジュルコン・デープレ教会の近くにあるクルス・ドゥ・パリ・マビョンエスパス・ピザ(ピザ屋さん)に行って、ナスティアと会っていた…
ふたりで5ユーロのピザセットを注文して、ランチを摂りながらこんな会話をしていた…
「デパートの仕事を、1日でやめちゃったの?」
「うん。」
「どうしてやめたりなんかしたのよ?」
「どうしてって、上得意さんのお客様とか…お得意様のお客様相手の仕事は…アタシには向いていないのよ…とにかく、頭の痛いことばかりが多すぎるから、正直言ってしんどいのよ…」
「困ったわねぇ…」
「あのねぇ…アタシはチュウボウで食器洗いとかデスクワークなどの…お客様と合わない仕事しか知らないのよ…ナスティアは、なれない仕事でも少しずつなじんで行けばいいのじゃないと言うけれど…ああ…頭がゴチャゴチャしてきたわ…」
アタシは、ミニッツメイド(果汁エード)の350ミリ缶のジュースをゴクゴクとのんで、大きくため息をついてから、ナスティアにこう言った…
「あのねナスティア…アタシね…正直言ってね、パリに来るのじゃなかったと思っていたところなのよ。」
「アリョーナ、それじゃあ聞くけれど、この先どうやって行くのよ?他に行くところはあるの?」
「ないわよ。」
「ないわよって…それじゃあ、アリョーナはこの先どうやって生きて行くのよ?」
「アタシね…この際だから…ハバロフスクへ帰ろうかと思っているのよ。」
「ハバロフスクに帰るって…あんた本気なの?」
「だって…パリにいたとしても、アタシの身丈に合う職業がないのよ…かといって、ブラブラしているわけにも行かないし…いっそのこと、今日中にパリから出発しようかなと思っているのよ。」
「ちょっとアリョーナ、今日中にパリを出発して、列車の乗り継ぎを続けてハバロフスクまで行くと言うけれど…今の時間帯に出発をしたらハバロフスクには1ヶ月後に到着をするのよ…それでもいいの?」
ナスティアからの問いに対して、アタシはこう答えた…
「それでもいいわよ。」
「アリョーナ。」
「アタシはね…よく考えてみたら…会社づとめができない女だから…結婚をするより方法がないのよ…ナスティアはいいわよ…大学に行ってやりたいことがたくさんあるし…大学に行けばボーイフレンドもたくさんいるし…アタシは何をやっても失敗つづきだからダメ女なのよ…ひとりで生きて行く力もないし…」
「だからってアリョーナ、あんたカンタンに人生をあきらめるわけなの?」
「仕方がないわよ。アタシは神さまに見離されたのよ。」
「それじゃあアリョーナ、アリョーナが以前付き合っていたタメルランとどうして別れたりしたのよ!?」
「どうしてって…カレの家の家族からアタシとタメルランの結婚を猛反対されたのよ!!できるわけなんかないわよ!!」
「アリョーナ。」
アタシは、別れたタメルランのことをナスティアから言われたので、ますます気持ちが煮えてしまった…
「タメルランのことを言うのはやめて!!タメルランのことは…とっくに忘れたのよ!!」
「アリョーナ。」
「タメルランは…グロズヌイに帰って、家族を助けるために…大学をやめて働いているのよ…母親が大病で倒れて…父親も無職で…ちいさいきょうだいたちがお腹をすかせているのよ…そんな中でタメルランは、一生懸命になって家族を助けようと必死になっているのに…そんな中で、アタシがタメルランに会いに行ったら…冷たくあしらわれるだけよ…」
アタシはこう言った後、大きくため息をついていた…
ナスティアは『タメルランには会いたくないのね。』と語気を弱めてアタシに言った…
アタシは、タメルランと別れてからギスギスした気持ちを抱えて生きていたので、何をやってもうまくは行かないと思っていた…
パリにもいづらくなってしまった…
しかし、ハバロフスクに帰っても居場所なんてあるわけない…
アタシは、この先どのようにして生きて行けばよいのかわからなくなっていた…
アタシは、そんなやりきれぬ思いを抱えたまま2012年を迎えた…
アタシは、市内の第10区にあるレピュブリックのクロードヴェルフォー大通りにあるアパートに住まいを変えました。
バイト先は、朝は7時から10時までサンルイ病院でリネンの仕事をして、午後1時から4時までは区役所でショムの仕事をして、夜の6時から9時まではタンプル大通りにあるないとパブのお仕事と…3つのバイトをかけもちしてお給料を稼いでいた…
月給は、合わせて7000ユーロであった…
その中から、アパートの家賃500ユーロを払っていた…
そして、残った分で食費などの諸々の生活費などにふりわけていた…
そして、残りの2000ユーロを毎月少しずつ貯金をして、女ひとりで生きて行くための備えを作っていました。
今はとにかく、生きて行くために働かなくては…
アタシは、そう思いながら日々の暮らしを送っていました。
そしてまた、時は流れて…
2012年4月2日の午後2時頃でありました。
アタシは、区役所にてショムの仕事をしていた…
アタシは、キャタツを使って掲示板のポスターを新しいのに貼り替える仕事をしていた…
アタシは、古いポスターを止めているピンを外して、新しいポスターに貼り替える仕事をしていた…
その時に、足場が少し不安定になっていたので、キャタツがグラグラと揺れてキャタツから落ちそうになっていた…
「あぶない!!」
アタシがキャタツから落ちそうになっていた時に、通りかかった区役所の男性職員に助けられた…
「大丈夫かな?」
「ええ…アタシは大丈夫よ。」
「足場が悪いようだね…怖かったよね…落ちそうになって。」
「うん、怖かったわ…でも助けてくれてありがとう…」
「よかった。」
「助けてくれてありがとう…アタシの名前はアリョーナよ。」
「アリョーナさんですね…ぼくの名前はフィリップです。」
「フィリップさんね。」
アタシを助けて下さった男性職員さんは、フィリップさんと言う26歳の男性でありました。
アタシは、フィリップさんに一目惚れをしたので、3番目の恋が始まろうとしていた…
それから2日後のことでありました。
アタシは、夕方4時に区役所の仕事が終わったので、空いた時間を利用して、近くにあるタンプル公園へ行きました。
アタシは、ベンチに座ってお昼に食べようと思っていたサンドイッチで遅いランチを摂っていた…
その時に、アタシはフィリップさんと再び会いました。
「フィリップさん。」
「アリョーナさん。」
「おとといは、助けてくれてありがとう…もう少しでアタシ…」
「いえいえ…アリョーナさんは、いつもここでごはんを食べているのかな?」
「そうよ…今は…お昼に食べようと思っていたサンドイッチ屋さんで買ったサンドイッチを食べそこねてしまったから…遅い夕食を食べているのよ。」
「ランチと夕食がごっちゃになってしまったのか…」
アタシは、サンドイッチを食べ終えた後、フィリップさんにこう言いました。
「ねえ、フィリップさん。」
「なあに?」
「こんなことを聞くのもなんだけど、フィリップさんには、好きな恋人さんはいるのかな?」
「えっ?」
フィリップさんは、アタシからの問いに対してビックリしていた…
フィリップさんは、少し落ち着きを取り戻したあと、アタシにこう言うた…
「ぼくに…好きなカノジョは…いないよ。」
「いないの…」
「うん。」
「アタシね…実を言うとね…」
アタシはこの時、思いきってフィリップさんに告白をしようとしていた…
しかし、告白しようと思っていたら言葉が出なかったので、苦しんでいた…
「どうしたのかな?」
「ああ、何でもないわよ。」
「変なの…」
フィリップさんは、少しがっかりした表情になっていた…
それでもアタシは、もう一度勇気を震い立たせてフィリップさんに告白をしてみた…
「フィリップさん…あのね…アタシ…あっ、アタシ…」
「アリョーナさん、もしかして…ぼくのことが好きになったのかな?」
「えっ?」
アタシがフィリップさんに告白をする前に、フィリップさんが真っ先にアタシに告白をした…
「ぼく…アリョーナさんのことが気になってしまったのです…何なのだろう…知らないうちに…アリョーナさんのことが…好きになってしまった…」
アタシは、フィリップさんからの告白を聞いたので、乳房(むね)の奥がキュンとしていた…
フィリップさんは、アタシに恋人になってほしいとおねがいをしていた…
「アリョーナさん…ぼくの恋人になってください。」
アタシはフィリップさんからの告白を聞いた時、乳房(むね)の奥がしめつけられるほど苦しくなっていた…
「フィリップさん。」
「アリョーナさん…ぼくは…アリョーナさんのことが…大好きなのです。」
アタシはこの時、フィリップさんのトリコになっていた…
そしてこの瞬間に、アタシの3番目の恋が始まりました。
アタシとフィリップさんは、2012年の4月8日の復活祭の日に最初のデートをしました。
アタシは、朝方のリネンの仕事を終えた後、フィリップさんとの待ち合わせ場所である地下鉄ゴンクール駅へ行きました。
アタシのデート着は、上は白色でリップサービスのロゴが入っているTシャツの上から黒のレースのジャケットをはおりまして、下はデニムのスカートで、足元にはかわいいサンダルをはいて、白のぼうしをかぶりまして、赤茶色のバッグを持って待ち合わせの場所へ行きました。
地下鉄ゴンクール駅にて…
フィリップさんは、アタシよりも30分早く待ち合わせの場所に到着をしていて、アタシがくるときをを待っていた…
「フィリップさんお待たせ…待った?」
「ぼくも、今来たところだよ。」
「よかったわ…ねえ、どこへデートに行く?」
アタシとフィリップさんは、地下鉄に乗って中心部のルーブルまで行きました。
ふたりの最初のデートは、軽めにチェイルリー公園に行って、のんびりと腕を組んで公園内を散策しました。
2回目以降は、ルーブル美術館へ行って、絵画を鑑賞したり、朝のバイトがお休みの時はマルシェ(バザール)に行って、新鮮な食材の買い出しをした後にフィリップさんの部屋に行って、ふたりでクッキングを楽しんだりするなどして愛を深めて行きました。
アタシとフィリップさんがお付き合いを始めてから3ヶ月が経過した頃でありました。
この時ふたりは、結婚を意識するようになっていたので、あとはフィリップさんからのプロポーズを待つのみとなっていた…
時は流れて…
7月14日の革命記念日に、アタシとフィリップさんはシャンゼリゼ大通りにあるフーケッツ(カフェテリア)に行って、19ユーロのチキンのクラブサンドイッチと8ユーロのブレンドコーヒーを頼んで、ランチを摂っていた…
ランチを摂った後、ふたりはコーヒーをのみながらお話しをしていた…
「アリョーナ…今日はアリョーナに話があるのだけど…聞いてくれるかな?」
「フィリップさん。」
フィリップさんはアタシにこう言った後、バッグの中から小さな箱を取り出した…
フィリップさんは、小さな箱のふたをアタシの前で開けた…
箱の中に入っていたのは、カメリアダイヤモンドのエンゲージリングであった…
フィリップさんは、アタシの右の薬指にエンゲージリングをつけた後、アタシにプロポーズの言葉を伝えていた…
「アリョーナ…ぼくの妻になってほしい…ぼくは…アリョーナしか愛せない…」
「フィリップさん…」
アタシは、フィリップさんのプロポーズの言葉を聞いた瞬間に、涙がポロポロとこぼれていた…
うれしい…
フィリップさんからプロポーズをされたアタシは、フィリップさんとの結婚することを決めました。
今度は…
本当に幸せになる…
ううん…
今度こそは、結婚生活を長続きできるように努力するわ…
アタシは、何度も何度も繰り返して自分自身に言い聞かせていた…
7月21日、アタシとフィリップさんはバスティーユにあるノートルダム・デスペテンス教会にて、ふたりきりで結婚式を挙げた…
その後ふたりは、住まいを第4区にあるフラン・プルジョウ通りにある家賃25ユーロの2階建ての一戸建ての借家で暮らすことにしました。
家具や家電製品は、区役所の同僚さんたちのご厚意で使い古しの家具と中古でまだ使える家電製品をいただいたので、出費を抑えることができました。
今度こそは、結婚生活を長続きさせたい…
…と思っていた矢先に、思わぬトラブルに巻き込まれてしまいました。
結婚式から三日後の7月24日のことでありました。
アタシとフィリップさんが暮らしている家に、フィリップさんの出身地のコートダジュールからフィリップさんの両親と無職の妹さん(18歳)が、何の知らせもなく突然家に転がり込んできました。
転がり込んできた理由は、フィリップさんのお父さまが保証人になっている友人の借金700万ユーロが払えなくなってしまったので家を差し押さえられたので、居場所がなくなったと言うてアタシとフィリップさんに助けを求めて来ました。
フィリップさんの両親と妹さんは最初はリヨン郊外で暮らしている長男夫婦または、次男夫婦の家に行こうと思っていたけど、どちらも断られてしまったので、仕方なくアタシとフィリップさんを頼ってきたと言うことであった…
ふたりきりで暮らして行こうねと約束をしたと言うのに、突然フィリップさんの両親と妹さんが転がり込んできたので、アタシのいらだちは少しずつ高まっていた…
次の日の朝、アタシはバイトに行く時にフィリップさんに思い切り怒鳴りつけました。
「あんたね!!約束がゼンゼン違うじゃないのよ!!ふたりきりで暮らして行こうねと言うたのに、ウソをつかれたからアタシは思い切りキレているのよ!!」
「ウソじゃないよぉ…」
「それじゃ、どうしてあんたの両親と妹さんが突然うちに転がり込んできたのよ!?」
「オフクロとオヤジと妹は他に行くところがないのだよぉ…分かってくれよぉ…なあアリョーナ…」
「甘えないでよね!!あんたはアタシが何で怒っているのかが分かっていないみたいね!!何なのよ一体もう!!リヨンにいるあんたの兄夫婦二組に断られたから仕方なくこっちに来た…あんたの兄夫婦は困っている人を突き放すような冷たい人間だと言うことがよーく分かったわよ!!サイアク!!アタシまた、結婚相手を選び間違えたわ!!」
「だからさ…一番上の兄貴夫婦も二番目の兄貴夫婦も…どちらも娘の結婚問題で頭を痛めているからエンリョしているのだよ…」
「いいわけばかりを言わないでよ!!なんなのかしらあんたはもう!!どこのどこまでなさけない男なのかしら!!」
「オフクロはパートに出ると言っているのだよ…オヤジが働けないから…」
「キーッ!!ますますイラつくわね!!甘ったれるのもいいかげんにしなさいよバカダンナ!!アタシはね!!プータローのあんたの父親と妹のメンドーなんて一切みないから!!プータローの父親と妹さんのメンドーみるのは、あんたの役目でしょ!!今日中にお父さまと妹さんを殴り付けて、目を覚ませと怒鳴りつけて就職させなさいよ!!」
「無理だよぉ…オヤジはともかく…妹はハイスクールを長期間休みがちになった挙げ句に休学が…」
「いいわけなんか聞きたくないわよ!!今日じゅうにお父さまと妹さんを力で押さえ付けて就職させなさいよ!!それができないのであればあんたとは離婚するから!!アタシは本気だから、覚悟しておきなさいよ!!」
アタシはフィリップさんと大ゲンカをした後、赤茶色のバックを持ってバイトに出かけました。
フィリップさんのお父さまと妹さんは、あの日を境にして家にこもりきりになってしまいました。
そのために、アタシとフィリップさんとフィリップさんのお母さまで生活費を稼ぐことになりました。
3人お給料は、アタシが7000ユーロで、フィリップさんのお母さまが4000ユーロがやっとであるのに対して、フィリップさんが一番高く2万ユーロでありました。
3人の収入の合計は3万1000ユーロでありますが、生活が苦しいことに変わりはありませんでした。
フィリップさんのお父さまは、若いときにだいぶ無理をして体が弱っていたのであまり強くは言えませんが、問題はフィリップさんの妹さんの方にありました。
フィリップさんの妹さんは、ガッコーへ行きたいとか再就職をしたいと言う気持ちが薄れていたので、完全に無気力の状態になっていました。
フィリップさんの妹さんは、ことあるごとにアタシやフィリップさんのお母さまからおカネをセビリに来ていたので、すごく困っていました。
どうすれば、フィリップさんのお父さまと妹さんはやる気を出してくれるのだろうか?
アタシは、そんなことばかりを思うようになっていたので、悲鳴をあげていました。
それから15日後の8月15日のことでありました。
夕方6時頃に、フィリップさんがすごくイライラした表情で家に帰ってきました。
フィリップさんは、区役所から職員のお給料が9月分から2割カットされると言う知らせを聞いたので、表情がすごくイライラしていました。
区役所側の説明によると、職員さんたちのお給料の2割カットの理由は『経費の節約』と言うだけであって、詳しい理由につきましては一切言いませんでした。
しかも、区役所の役員の説明の仕方があまりにも頭ごなしに言う口調だったので、フィリップさんをはじめとしました区役所の職員さんたちは『役員はふざけたことを言っているようだ!!職員さんたちに経費の節約を押し付けておいて、区長や役員たちはゼータクザンマイの日々を送っているのだろ!!』と怒っていました。
フィリップさんは『これから先どうやって生きて行けばよいのか分からない…』と頭を抱えて悩んでいた…
9月分からは収入が減ってしまうので、生活はますます苦しくなって行こうとしていました。
アタシは区役所のショムのバイトをやめて、バイトをひとつ減らしたので、アタシの収入は4670ユーロに減少しました。
フィリップさんのお母さまも体調を崩していたので、1日3時間の就労に減らして負担を軽減していましたが、生活はいっそう苦しくなっていました。
そんな時にまた、新たな問題が発生しました。
家にこもりきりになっているフィリップさんのお父さまと妹さんが、毎日のようにテレビのチャンネル権争いを繰り返していました。
チャンネル争いは、朝の9時から夕方の4時の間にいつも発生していた…
家に帰ってくると、妹さんが『アタシが見たい韓流ドラマがあるのにお父さまがチャンネルをゆずってくれない!!』と言う言葉に対しまして、お父さまは『ワシはテレビを見ることが楽しみなのにィ…』と口をへの字に曲げて言い返す大ゲンカを繰り広げていた…
アタシは、ふたりのチャンネル争いを聞いてブチ切れていたので、テレビのコンセントをぬいてしまった…
この時に、フィリップさんのお父さまが泣きそうな声で『何でそんなひどいことをするのだよぉ…』とアタシに言ってきたので、アタシはこぶしをふりあげて、フィリップさんのお父さんを思い切り怒鳴りつけていた…
「あんたたちね!!いつまで下らないチャンネル争いを繰り返しているのよ!!チャンネル争いをしているヒマがあるのだったら、外へ出てまじめにシューカツをしなさいよ!!アタシは思い切りキレているのよ!!」
アタシの言葉に対して、フィリップさんの妹さんは逆ギレを起こしていた…
「義姉(ねえ)さん!!あんまりだわ!!アタシはね!!テレビがないと生きて行けないのに…ひどいわ!!」
「あんたね!!いつまで甘ったれたことを言っているのよ!!あんたの同級生のコたちは一生懸命になってハイスクールに行って、勉強をして、大学に行くことや今後の進学のことなどで頭がいっぱいになっているのに…どうして学校に行かないのよ!!アタシとお兄さんとお母さまが一生懸命になって外へ出て働いているのだから、あんたもガッコーに行きなさいよ!!明日からガッコーに行きなさいよ!!」
「義姉さんこそ何よ!?義姉さんこそえらそうなことばかり言わないでよ!!義姉さんは、ハイスクールを卒業できたからえらいと言いたいわけなのね!!ふざけたことを言わないでよ!!」
「キーッ!!何なのよ!?もう許さないわよ!!」
アタシはとうとう、フィリップさんの妹さんとドカバキの大ゲンカを起こしてしまった…
今回の一件で、アタシはフィリップさんの家族との人間関係が一気に気まずくなってしまいました。
そして、その日の夕方5時半頃のことでありました。
食卓には、フィリップさんとフィリップさんの両親と妹さんが座っていました。
テーブルの上には、クイック(ベルギーに本店があるハンバーガーのファストフードチェーン)の1個5ユーロのハンバーガーとミニッツメイドの缶ジュースだけであった…
フィリップさんのお父さまは、泣きそうな声で『ハンバーガー1個だけかよぉ~アリョーナさんの手料理が食べたいよぉ…』と言うたので、フィリップさんのお母さまは怒り気味の声でこう言うた…
「あんたね!!友人知人の借金やクレジットの保証人を引き受けたからこうなってしまったのでしょ!!アリョーナさんがどんな思いをして怒っているのか分かっているの!?」
「何だよその言い方は…優しくしてくれよぉ…」
アタシはこの時、ナイトクラブのバイトに行く準備を終えて出かけるところであったので、行く前にフィリップさんたちに怒鳴りつけていた…
「あのね!!ハンバーガー1個だけでも!!食べる物があるだけでも幸せだと想いなさいよ!!文句を言うのなら食べないでよ!!」
アタシは、フィリップさんたちを怒鳴りつけた後にバイトに出かけていった…
アタシが出かけた後、食卓はどんよりとよどんでいた…
それからまた5日後のことでありました。
フィリップさんのお父さまがタンブル通りにあるナイトパブに入り浸りになっていて、一晩中家に帰らない時が多くなっていた…
事件は、その翌日に発生しました。
8月4日、フィリップさんのお父さまが複数のナイトパブのノミ代の合計1万8000ユーロのツケがあったことが発覚した…
アレコレと切り詰めて、質素倹約でお金を使っていると言うのに…どうしてなのよ…
アタシだけではなく、この時はフィリップさんとフィリップさんのお母さまと妹さんもカンカンに怒っていた…
それから2日後、うちにナイトパブのオーナーさま5~6人が押しかけてきて、アタシたちにお父さまがためていたノミ代のツケ合わせて1万8000ユーロを払えと言いに来た…
アタシとフィリップさんのお母さまは、泣く泣くお父さまのノミ代のツケ合計1万8000ユーロを払ったけど、アタシとフィリップさんとフィリップさんの親きょうだい親族との人間関係はますます険悪になっていた…
それから20日後の8月27日のことでありました。
フィリップさんは、家族間のもめ事が深刻になったことを苦に家出して行方不明になりました。
フィリップさんのお父さまは、フィリップさんがいなくなった、気落ちをしていた…
その上にまた、虫の知らせが入ってきた…
フィリップさんが家出をした同じ日の正午前に、フィリップさんのお母さまがパート先の職場で倒れた…
フィリップさんのお母さまは、救急車でノートルダム橋の近くにある私立病院に緊急搬送された…
フィリップさんのお母さまは、病院に搬送された後に集中治療室にカクリされた…
フィリップさんのお母さまはくも膜下出血を起こしていて、危険な状態におちいっていた…
フィリップさんのお父さまと妹さんは、どうすることもできずにしくしくと泣いてばかりいる…
アタシはこの時、フィリップさんのお父さまと妹さんに思い切りキレていた…
何なのかしら一体もう…
どうして、自分たちの力で困難を乗りきろうとしないかしら…
情けないわね!!
アタシはこの時、フィリップさんと離婚をしようと決意した…
アタシは、フィリップさんのお父さまと妹さんがしくしく泣いている間に、荷物の整理をして家を出る準備をしていた…
これ以上フィリップさんの家にいれば、アタシはフィリップさんの家に殺されてしまう…
アタシは、強い危機感を募らせていた…
荷物の整理が終わった後、アタシはボストンと赤茶色のバッグを持って、フィリップさんの家から逃げ出した…