今夜23時、ベリーズカフェで。
“ブー ブー”
「お、オーナーだ。」
振動した大川さんのスマホ。
警察に見つかったらマズいような気がするけど、運転中の大川さんは構わずスマホを取った。
「はい大川です。・・・・お!いいっすね。
・・はい、事務所向かってましたけどすぐに引き返します。」
その電話の口振りから、
私への指名客が入ったと察する。
「マリアちゃん、90分で入ったよ。」
予想通り、大川さんが頬を緩ませた。
「誰ですか?」
「それが・・鈴木さんE。」
「・・E・・?ご新規さん?」
「いい加減“鈴木”もやめてほしいよなぁ。
店全体で考えたらアルファベットも、
もうすぐ“Z”にいきそうなんだけど。」
新規のお客さんはいまだに少し身構えるというか・・緊張してしまう。
フリー客なら、大抵は飲み会帰りのサラリーマンや、
ちょっと羽を伸ばしたがる大学生っていう予想が付くけど、
いきなり私を指名してくる場合は正直全く想像がつかない。
でも・・より一生懸命頑張らないと次は無い。
「じゃあマリアちゃん、
またLINEするから。
次の予約無かった場合は車まで戻ってきてね。」
「はい。行ってきます。」
ラブホテル“サマンサ”に着いて受付でカードキーを受け取る。
・・良い人だといいけど・・・。
エレベーターのボタンを押す手は、
ちょっとだけ震えていた。