今夜23時、ベリーズカフェで。
食べかけの茶碗を置いたお母さんが、ゆっくりと起き上がってタンスの引き出しを開けた。
「コウちゃんの事よりも前に・・
私はまだあなたにしてあげなきゃいけないことが山ほど残ってるんだから・・。」
「・・・?」
お母さんがタンスから出したのは2枚のチラシ・・。
もう何年も前に作られたものなのか、
そこにはお笑い芸人のダンディ坂野がゲッツのポーズをしながら・・・
「・・・ピアノ・・・?」
グランドピアノの販売チラシ・・・。
もう1枚は・・
大人のピアノ教室のチラシ・・。
「塾に通わせてあげられなかった。
服を買ってあげられなかった。
だからせめて・・ピアノだけは・・。」
「・・・・・・今さらなによ・・。」
「・・・・・・・・。」
「こんなもの買うお金の為に働いてるの?
今さら私の夢叶えてくれるんだ?
・・馬鹿じゃないの・・・!!」
「あ・・・・。」
2枚とも・・ビリビリに破いた。
15年前、泣きじゃくる私を一瞥して、
“ダメに決まってるでしょお金ないんだから”
の一言で終わらせたくせに・・
「罪滅ぼしのつもりで・・
自分の気休めのつもりだったら今すぐそのお金を現金でちょうだい。
全部コウタの為に貯金しておくから。
私はコウタがなにか“習い事やりたい”って言い出したら絶対に叶えてあげるんだから。
・・お母さんみたいにはならないから!!」
・・結局・・・ケンカ腰になって・・
まともな会話で終わることができない。
床に捨てたチラシのクズを1枚ずつ拾うお母さんを無視して、部屋を飛び出した。