今夜23時、ベリーズカフェで。


沖田さんがそっと席を立ち上がり、
店内へ消えていく。


事態を飲み込めないリョウコちゃんが、戸惑いながらラテとトーストをテーブルに置く。


事態を飲み込めない大川さんが、
ずっと私の背中をさする。




スタンプカードはあの夜に沖田さんへ渡した。

だからウチのリビングにスタンプカードが置いてあるはずがない。

もし置いてあったんだとしたら・・
誰かが・・

“大川さんがここに来るように”と・・
“風が吹いた”としか考えられない。



「・・おおがわざん・・・
おおがわざん・・・!!」


「大丈夫大丈夫。
大丈夫だから・・。」





快晴の空、パラソルに包まれる下。
大川さんの胸で嗚咽を漏らし続けた。



“マリア”は今日を以て完全に無くなった。

“桜井エミカ”として生きていくと決意した心を・・

この日以来、私の事を“エミカちゃん”と呼んでくれるようになった大川さんの胸で、



“マ~マ~!”
“エミカ!”



いつまでも消える事のない声を心に宿し、
生きていく事を決意した。







第1話 完





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