幼な妻だって一生懸命なんです!

「昼休み、プロポーズされたんだって?長瀬に」

「そうなんです、なんか嘘みたいなシチュエーションで」

私が心底困ったと肩を落とすと菜々子さんはため息をつき、ビールにまた口をつけた。
そのジョッキをまたテーブルに置くと

「相変わらず強引」

視線はまっすぐ向いたまま、私の顔を見ない。
ポリっとナッツを噛んでいた。

「で、美波ちゃん、どうするの?」


今度は私にちゃんと視線を合わせて聞く。


「どうするも何も、私、長瀬さんのこと知らないし、はっきり言って困惑しています」


「だよね」


「どうしたらいいでしょうか?もう噂が回っているって。明日から多くの視線に耐えられる自信がありません」


「迷惑な話だね、ほんとに」

菜々子さんが唇を噛み、何かを考えている。
私の今置かれている状況を、心配してくれているようにも思えた。
彼女のそう言うところが好きになった一つでもある。
言葉が淡々としているけれど、実は情が深い。
社会に出て何もわからない新人の私を、育ててくれたのも菜々子さんだった。


「本当に長瀬と美波ちゃんに接点はないの?」


「ないですよ、さっき連絡先を聞かれたくらいですよ」


「だよね」


「あ、長瀬さん、閉店後に来ましたか?」


「知らない」


「え、菜々子さん、なんとかしてくれるって」


「速攻、片付けて…というか店長に最後お願いして出て来ちゃったからな〜」


なんだか、変な罪悪感に駆られてしまう。
ちゃんと本人に、お断りしておけばよかった。


「気にしなくて大丈夫だよ」

本当に大丈夫なのかな、と考えていると

「で、どうするの、いったい」

どうしたらいいか答えなんか出ない。

「このまま私がスルーすれば、無かったことになりませんかね」

「ならないかな、長瀬の性格から」

やっぱり菜々子さんは長瀬さんをよく知っているように聞こえた。

「あの、もしかして長瀬さんをよく知ってるんですか?」

「同期」

「え、同期って入社が同じの?」

「他に何があるの?」

「なんで教えてくれなかったんですか」

「別に話題にすることでもなかったから」

「菜々子さーん」

私はすがるように言う。

「やだ」

「えー、まだ何も言ってない」

「長瀬とは関わりたくない」

「何でですか?同期なら助けてくださいよ、何か事情があるんですか?」

「何もない。あるわけがない。けど、あいつが関わるとロクなことにならない」

「あいつって…イマイチ意味がわかりません」

「あいつの存在自体、厄介なんだよ。まさか、美波ちゃんが標的になるとは」

「標的!って、怖いですよ、菜々子さーん」


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