幼な妻だって一生懸命なんです!

ますます長瀬さんの存在が大きくのしかかって来る。
菜々子さんまでも面倒がる長瀬さんって、どんな人なのか。
冷静に考えても食堂で付き合ってもいない私にプロポーズすること自体、厄介な存在を意味している。

「はぁ」

ため息をこぼした時、カウンターから私たちの様子を見ていたマスターと直人さんが心配そうにこちらを見ているのがわかった。

「ため息ばかりで、すみません」

「なんかあったみたいだね」

マスターが他のお客さんにオーダーされた飲み物を作りながら、心配そうに言葉をかけてくる。

「マスターには関係ないから」

どう言うわけか、菜々子さんはマスターに人一倍冷たい態度で接する。
なのに私との待ち合わせは決まってこの店だし、座る場所もカウンターだ。

「はいはい、奈々たちの話に口を出さないよ」

ふざけてペロッと舌を出す。
マスターは「いつものこと」という顔をして、何もなかったように出来上がったカクテルを私たちと逆サイドに座っているおひとりさま女性に差し出した。

その女性は嬉しそうに受取り、マスターとの会話を楽しんでいる。
絶対マスター目当てだ。
それを菜々子さん越しに見入っていると

「見過ぎ」

菜々子さんに怒られた。
カウンター越しに直人さんが「素直じゃないんだから」と小さくつぶやいている。
マスターは独身。
菜々子さんにとっては同じ地域に住んでいたお兄さん的存在らしい。

学生の頃は疎遠になっていたが、就職した菜々子さんがマスターのお店に偶然に立ち寄ってから、ずっとお店には通っていると聞いた。
ツレない態度は菜々子さんの心の現れだとは思うのだけれど、まだきちんと確かめたことはない。

好きなのか、なんとも思っていないのか。
前に一度、菜々子さんにマスターのことをどう思うかと聞いたことがある。
その答えは「どうもこうも考えたことがない」と言うけれど、私は絶対、菜々子さんはマスターのことが…

「また余計なこと考えてるでしょ、美波ちゃんは」

「あ、は」

「それよりも、もっと真剣に考えることがあるでしょ」

「そうだ、そう!長瀬さん、どうしましょう、本当に」

すると菜々子さんの口から思いも寄らない言葉が出てきた。



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