幼な妻だって一生懸命なんです!


「美波ちゃんが精神的ダメージにつながるほど困っているなら、断固として拒否すればいいと思う。でも少しでも長瀬に好意があるなら、お試しで付き合ってみたら?おすすめはしないけど」

オススメはしないのに、進めるのかという矛盾点は置いておいて。

「長瀬さんに好意?」

「困ってる、迷ってるというのは長瀬だからじゃないの?好意が少しも無ければ迷うこともないと思うよ」

そうかもしれない。
これまでは雲の上の人だった。
そんな存在の人にプロポーズされている。
それが嫌ではないのだ。
むしろ…少し嬉しい。困惑はしているが。


菜々子さんの言葉に少し頭を整理していると、いつのまにか戻ってきたマスターが

「おい、それは無責任じゃないか、奈々」

「話の内容、聞いてたの?」

「ははは、聞こえて来たんだよ、勝手に。でさ、その長瀬って、あの長瀬くんだろ?」

あの長瀬くん?

「えっ?マスターも長瀬さんのこと、ご存知なんですか?」

菜々子さんの頬がピクッと動き、マスターを睨んでいた。

「あ、いや、昔ね、よく店に来てたんだよ」

マスターは何かを誤魔化すように、グラスを洗い始めた。
これまでここで長瀬さんの話題は一度たりとも出てこなかった。
菜々子さんと同期ということも、接点があったことも初めて知った。
今日はいろんなことがありすぎてキャパオーバーだ。
その夜は何の解決策も出ないまま、店を後にした。


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