幼な妻だって一生懸命なんです!
お試しでお付き合いします
翌日、店に出勤すると店長に呼ばれた。
「Sweet Time Tea」は、専門店が立ち並ぶデパ地下では珍しく百貨店直営の紅茶専門店だ。
だから店長も菜々子さんも私も、百貨店の社員として籍を置いている。
私が百貨店に就職を希望したのは、この「Sweet Time Tea」で働きたかったから。
紅茶専門店「Sweet Time Tea」に就職が決まった時、一緒に喜んでくれたのは母方のおばあちゃん。数年前におじいちゃんは他界したので、今、一人、立川で暮らしている。
私が紅茶に興味を持ったのもおばあちゃんの影響だ。
若い頃、おばあちゃんの初恋の人が、京都にオープンした日本初のティーハウスに連れて行ってくれた時の思い出をよく話してくれた。
その時に飲んだ紅茶の味が忘れられないくらい感動したこと、当時の恋心を嬉しそうに目を細めながら話すおばあちゃんの笑顔が好きで、よくその話をしてとせがんでいた。
まだそのお店は京都にある。
一度、一緒に旅行に訪れた時にそのお店に寄ったことがある。
おばあちゃんは「当時と変わってしまったのは私の記憶がおぼろげだからかしら?」なんて言っていたけれど、初恋の人と訪れたのは40年以上も前のことだ。
街もお店も変わっているだろう。
ただ、そこにある思い出はいつまでも色褪せずにあるのか、おばあちゃんは感慨深い面持ちで紅茶を飲んでいた。
初恋のその人とは結ばれない運命だったと、少し淋しそうに話すけれど、最後には
「でも、その人と結ばれずにおじいちゃんと出会ったから、こんな可愛い孫ができたのよ」
私の手をぎゅっと握るのだった。