幼な妻だって一生懸命なんです!
モヤモヤを抱えたまま、やっと午前中の仕事が終わり、午後一時近くにお昼休憩になった。
公開プロポーズ後すぐだし、しばらく食堂は行けない。行きたくない。
百貨店の裏にある小さな公園のベンチに座る。
公園内には肩身が狭く追いやられた喫煙者が何人かいる。
あとは鳩が何羽かいるだけで、九月だというのに残暑が厳しい日だが、ビルの狭間にあるからか日当たりの悪い場所。
台風が近づいて来ているという予報通り、空はどんよりと曇っている。
雨が降っていないだけありがたいと思う事にしよう。
本当は空調が効いている快適な食堂で食べるはずのおにぎり。
これからしばらく外で食べることになるのだろうか。
「困ったな」
「何を困ってる」
「ヒィ!」
放った独り言に、誰かが返事をした。
恐る恐る後ろを振り向くと、今まさに私を悩ませている男性が立っていた。
「長瀬、さん」
言葉遣いが普段と違ったからか、すぐに長瀬さんにつながらなかった。
「今日は食堂じゃないのか」
あれ?あら?何でしょう、この人。
昨日、私にプロポーズした人と同じ人でしょうか?と思うくらいぶっきらぼうだ。
愛想の良い長瀬さんはどこへ行ったのでしょう?
「こんな蒸し暑い所で、よく飯なんか食えるな」
えっと、あなたが私の居場所を奪った張本人ですよね?
「おい、聞いてるのか!」
凄みにある声にビクッとする。
「聞いてます、聞こえてます」
「返事くらいしろよ」
「あの、何でここに?」
「食堂にいないからだろ、あんたの店に行ったらここじゃないかって聞いて」
えー、誰?言っちゃったの。
個人情報漏洩にならないのか、私ごときの居場所なんて。
「飯は終わったのか」
「まだですけど」
「あそこのコーヒーでも飲むか」
テイクアウト用のコーヒーを売ってるカフェワゴン車を指差した。
「いえ、私、コーヒーはあまり」
私が働いている店は紅茶専門店ですので…という余計な言葉を喉の奥へと引っ込めた。
「ああ、そうか」
落胆する声を聞いて思わず顔を見る。
あれ?何でこの人、そんなことでヘコむの?
始めの勢いはどこに行ったのかな。
なんとなくこの先、彼がどんな言動をするか興味が湧いて来た。
「そこ、いいか?」
控えめに今度は私の隣を指差す。
私がコーヒーがダメだってことだけで傷ついてないよね?
突っ立ったまま、私が返事するまで待つようだ。
これは話をしないことには解決しないと思い「どうぞ」と言いながら、おにぎりを片付ける。
「続けて食べていればいい」
「無理です」
食べられる雰囲気じゃないことを察してほしい。
「ああ、悪い、邪魔してるよな」
素直なのか、そうじゃないのか、何だかなぁ。