幼な妻だって一生懸命なんです!
自分でやったくせに照れてるのだろうか。
視線を外せず、長瀬さんを見ていると

「見るな」

低く魅力的な声。
その言葉が私の心を揺らす。
また私から目をそらし、膝を大きく広げた体制で、つま先をじっと見つめている横顔を見る。

耳まで真っ赤になっていた。

「可愛い…」

心の声がこぼれてしまった。
長瀬さんが咄嗟にこちらを向いて眉間に皺を寄せる。

「何だと?」

「あ、いや。すみません」

言葉は乱暴だけれど、怖くない。
照れたり、自分の気持ちを悟られたくない時にぶっきら棒で乱暴な言葉が出るのかもしれない。

「なんだかイメージしていた人と違ったので」

「どういう意味だ、どんな風に見えていたんだ」

「人当たりが良くて優しくて大人で…誰にでも親切で」

女性の噂が絶えなくて…と言うのはやめておいた。

「今はどう見えるんだ」

「無愛想で言葉遣いが悪くて、横柄で、勝手なことばかり言ってる」

「本人目の前に悪口か、いい根性してるな」

「いえ、そういうわけじゃ…痛い!」


おでこをピンと指で弾かれた。
ぜんぜん痛くはなかったけれど、こんな行動をする長瀬さんがおかしくて、つい大袈裟に声をあげてしまっていた。
それにしても子どもみたいだ。
おでこを撫りながら長瀬さんを盗み見すると、こっちを見て「ふっ」と笑顔を見せていた。

ドキっ

私の心に音が鳴った。
あれ?なんだドキって。
まずい、これは非常にまずい。

「おい」

「はい」

「返事はどうなんだ」

「あ、結婚のですか?」

「そう」

ほんの数分前まであり得ないと思っていたことが、今ははっきり断ることにためらっている自分がいる。

この時、奈々子さんの言葉が頭に過る。

「お試し、お試し期間を設けませんか?」

「は?」

「私も長瀬さんのことを知らないし、長瀬さんだって」

長瀬さんだって私のことを知らないくせに。
急に切なく、ムカついてきた。

「お互い何も知らないのに結婚なんて…だから、お試し期間を作ってお付き合いをするのは?」

「普通に付き合うのと何が違う。お試しで結婚するならわかるが」

「あ、そっかー、いや、違う、違う。だって…」
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