幼な妻だって一生懸命なんです!
突然のプロポーズされました
その日は私は早番で、遅番のスタッフに店をお任せし、ひとり先に食事をしていた。
運良く空いていた窓際の席に座り、のんびりと窓の外を見ながら、食後のお茶をすすっていていた私に、すっと陰が落された。光りが遮られたことで誰かが自分の目の前に立っていることに気が付き、その方向へと反射的に顔を向ける。
「僕と結婚してくれませんか?」
まるで「この席、あいてますか?」と同じようなトーンで話す彼をじっと見つめる。
この男性を私は知っている。
いや、誰もが知っているほど有名な人だ。
経営戦略室室長 長瀬要 32歳
180cmほどありそうなスラッとした無駄のない体躯。
だからといって細すぎる訳じゃない。
仕事柄か前髪を上げたヘアスタイルからハッキリ見える黒目がちな瞳と、クッと上がった口角。
爽やかな笑顔で私を見下ろしている。
女性従業員や、テナントの販売員、お得意様の奥様も彼を王子様と呼ぶ意味がよくわかる。
その彼が今、私の目の前で放った言葉はなんて?
なにが起こっているか考えること数秒。
考えても理解できない。
それまで長瀬さんとは仕事以外の会話はしていないはず。
お客様用に手土産を持って行く時に、うちの店の紅茶をお渡ししたくらいだ。
長瀬さんと私の接点を考えていても、やっぱり仕事以外何もない。
「…」
長瀬さんをみつめたままポカンとしている私に、彼はもう一度同じことを言った。
「急にごめんね。もう一回言うよ。瀬戸美波さん、僕と結婚してください」
まっすぐみつめられる瞳に吸い寄せられるように私の口から出た言葉は