幼な妻だって一生懸命なんです!

長瀬さんは運転席側から反対方向へぐるっとまわり、助手席のドアを開けてくれた。

「どうぞ」

私を誘導するように、ドアを持ったまま待っていてくれる。
隣に停まっている車との間がほとんどないのと、車高が高いので乗りづらい。
それに今日はちょっとヒールの高い靴を履いているので、足元がふらふらする。
長瀬さんはドアが隣の車に当たらないように抑えながら、「ほら」と手を差し出してくれた。

自然に彼の手を借り、ステップに足をつけ勢いよく座席に座ろうとしたけれどバランスを崩しそうになる。
しかし、彼がしっかりと腰のあたりを抑えて私はストンと助手席に座れていた。

「ドア、閉めるぞ」

私が座ったのを見計らってドアをゆっくりと締めた。
大きな車のボンネットの前をグルッと回り、運転席へと乗り込む長瀬さんを目で追う。
手を当てられた腰が熱を帯びている私は意識しているのに、長瀬さんは表情一つ変わらない。

こんな風に女性を助手席に乗せることは慣れているんだろうか。
ふとした考えが浮かび上がって、胸がジリジリとした。

この車、同じ車種が走っているのは見たことがあるけれど、こんなに車高が高かったかな。
運転席に慣れた動作で乗り込んで来た長瀬さんがエンジンをかけた。
ぶぶぶぶぉー。
エンジン音も今どきじゃない。
電気自動車の静かさとは全く逆の大きさだった。

「年季、入ってますね」

「これか?」

ハンドルに両手を置き、トントンと軽く人差し指で叩く。

「そう、これです」

私もボンネットに向けて指をさした。

「でも長瀬さんがすごく気に入って、愛着を持って大切にしている気がします」

何がわかるんだと嫌味を言われるようにわざと知ったかぶる。
覚悟をしてまっすぐ向き、その言葉を待っているのに、しばらく何も返ってこない。
あれ?

長瀬さんを見るとハンドルに置いた手の上にさらにおでこをコツンと当て、「はぁ」とため息を落とし、そのまま伏せてしまった。

気に障ったのだろうか?
とりあえずここは失礼にならないように謝っておこうか?
少し調子に乗りすぎたと頭の中でぐるぐると状況を巡らせる。

「長瀬さん?あの…気に障ったなら、すみません」

長瀬さんはバサっと顔を上げて私の方を向いた。

「気に障ってるわけじゃない。こういう車でいいのか?」

「えっ?いいのかって?嫌じゃないですよ、むしろ好きです」

「好き?車、詳しい?」

「いいえ」

即答したら長瀬さんは拍子抜けしていたが、「何が、好きなんだ」と興味があるようだ。

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