幼な妻だって一生懸命なんです!
「無理です」
いやいやいや、おかしいでしょう。
話したことは仕事で数回。その私に何でプロポーズ?
何かの罰ゲーム?
見上げた長瀬さんを見つめたまま、この場を動けない。
彼は「ん?」と短く疑問符を打つと、まるでプロポーズは受け入れられて当然の事のように不思議そうな顔をしている。
「あの…人違いでは?それとも…」
まさか罰ゲームかなんて聞けない。
興味本位で注目されてしまっている中、消え入るような声で尋ねてみると
「瀬戸美波さんでしょ?Sweet Time Teaの。人違いでも罰ゲームでもないよ」
心の声が漏れていたのか、涼しい顔で私の考えていることを言い当てる。
ふと感じる好奇の目。
食堂のいつもの賑やかさが遠く感じ、私たちの周りにいる社員は、みんな私たちに注目しているのがわかった。
恥ずかしい。
「すみません」
小さくつぶやいて、立ち上がる。
食器が乗ったトレイを返却口へ置くと、足早にその場を去った。
「あ、おい」
長瀬さんの声が背中で聞こえた。
ついでに周囲にいた人たちの声も。
「嘘、なんで?」
女性からはジェラシーを含む声。
「まぢか」「あれ、誰?」
男性からは単純に疑問しかない。
なんで私なのか、この私が知りたい。
しかもこんなに大勢の人がいるところで恥ずかしいし、どうかしてる。
一目散に駆け出して自分の職場に戻って来た。
売り場にいた先輩の川西菜々子さんが、慌てて帰って来た私の顔を見て不思議そうな顔しているけれど、接客中で私に話しかけることはなかった。
私は、そのままバックヤードに逃げ込んだ。