幼な妻だって一生懸命なんです!
衣装合わせのとき、ほとんど私一人で決めていたので、彼の衣装を見るのは初めてだ。
これから親戚になる私の親族は、彼の姿にこぞってため息をつく。
程よく筋肉がついた体は、和装も難なく着こなしている。
素敵なのだ。
長瀬さんもまた啓介と同じように、その場に立ち尽くしている。
合った視線は上から下までを一通りを眺めると、再び私の視線を捉えた。
「美波ちゃん、また後でね」
気を遣った親族が次々と控え室から出て行く。
窓から外をずっと眺めていた父もまた
「要くん、よろしくお願いします」
母と啓介と控え室を出て行ってしまった。
長瀬さんは、私の元へと静かに歩み寄る。
祖母だけがその場に残り、背中をさすってくれていた手を止め、私の正面へと移動する。
「美波」
いつも私を「みーちゃん」と呼ぶ祖母が「美波」というときは、改まって何かをいう時。
「要くんと幸せになるのよ」
また涙が出て来そうだ。
「はい」
小さく返事をする。
その返事を聞くと小さくうなずいて、長瀬さんの方へ向きを変えた。
「要くん、美波を…大切にしてやってください」
大げさにも聞こえる言葉が、特別な日だからか、胸に響く。
「もちろんです。里子さん、ありがとうございました」
祖母に深々と頭を下げた長瀬さんに、頭をあげなさいと促すように彼の頭をポンポンと軽く触れ、祖母は「また後でね」と控え室を出て行った。
この時、二人の間に私の知らない空気が流れていることを感じていた。
しかし、その後すぐに式が始まり、慌ただしい時間と緊張で私はすっかりそのことを頭の中から消してしまっていた。