幼な妻だって一生懸命なんです!

式は恙無く(つつがなく)終わりを迎えた。
両親への感謝の手紙を読んだときは父が大泣きして花嫁よりも目立っていたけれど、それはそれで後々語り草になるだろう。思い出になる。

披露宴はホテルで行われたため、私たちは今、そのホテルのスイートルームにいる。
スプリングが程よく効いた深いグリーン色のソファが対で二脚。
それとは別の部屋に椅子が六脚もある丸テーブルがある。
寝室は…まだ見ていない。なんとなく気恥ずかしくてその部屋だとわかると避けて通ってしまった。

ビジネスホテルしか泊まったことのない私は、見るもの全てが珍しい。
一番めずらしいのは、この高さで都内のランドマークが一望できた景色。
部屋はは長瀬さんと暮らし始めたマンションより少し低い位置。
長瀬さんの部屋からは東京タワーではなく、スカイツリーが見えていた。

「わ、東京タワーとレインボーブリッジが一緒に見られますよ!」

窓際ではしゃぐ私を長瀬さんは呆れたように

「そんなに珍しいか?東京に住んでいるくせに」

「東京は東京でも生まれ育ったのは都下だったので…」

「ああ、そっか」

実はそんなに珍しくてはしゃいでいるわけではない。
緊張しているのだ。
今夜はこの豪華な部屋に宿泊だ。
いわゆる…初夜を迎える。

長瀬さんは、私を抱いてくれるだろうか?
私の体を気に入ってくれるだろうか?
私が口をつぐむと、途端に部屋は静寂に包まれる。
こうも高層階にいると、野外の音は何も聞こえない。

「疲れたな」

夕空を見るふりをして、緊張を隠していると長瀬さんの声がすぐ後ろに聞こえ、ビクッと反応した。

「美波…」

彼が私の肩を引き寄せ、そのまま彼の正面で抱きかかえられる体制になる。

「外ばっかり見てないで、俺を見ろ」

彼が普段と違う目色で私を見つめた。

「長瀬さん…」

声が思うように出ず、かすれてしまう。

「美波だって、もう長瀬だろ」

いたずらっぽく彼がからかう。

「長瀬、美波」

新しい名字になった私をフルネームで呼ぶ。

「長瀬美波、長瀬美波、長瀬美波」

なんども…
 

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