幼な妻だって一生懸命なんです!


そっと胸から顔を離し、伺うように要さんの顔を見上げる。

「それ今か? ずるいな」

「えっ?」

「無意識って、案外、タチが悪いな」

最後の「な」に力が入ったのは、少し屈んで私の膝裏に手を差し込み、そのまま横に抱き上げたからだ。

「えっ?えっ?」

そのまま寝室方面へと歩き出す。

「動くと落ちるぞ」

力を抜いて、落とすようなふりをする。
慌てて要さんの首に手を回した。
歩きながら、私を優しい眼差しで一瞥(いちべつ)した後、すぐに寝室へと視線は向き直る。
私をからかう時のように彼はニンマリと笑っているのかと思ったのに表情は固い。

そんな顔を見るのは初めてだ。
なんとなく目が離せなくて、つい見入ってしまうと、

「見るな」

怒られた。
いくら広い部屋だからって、寝室までに何時間もかかるわけではない。
要さんの歩幅では数十歩でたどり着く。

寝室のドアを私を抱えたまま片手で器用に開け室内に入る。
真ん中にクイーンサイズの大きなベッド。
シワひとつないシーツカバーがやけに印象的に見える。

正面には大きな窓ガラス。
そこから西日が注ぎ込み、オレンジに染まる部屋に重なった二人の影が伸びた。

静かに私をベッドに横たわらせると、彼は私の上を跨ぐ。
体の外側に彼は両手を付くと私の上半身が少し沈んだ。
上から私の顔をみつめる彼の瞳がゆらゆらと揺れている。

その瞳に捕らえられた私は、動くこともできず、彼の視線からも逃れられない。
彼の視線が外されたのは、視界がボケるほどの近さに来たから。

チュッ、チュッ、チュッ。

啄ばむような軽いキスが唇に落とされる。
徐々に頰に、耳に、首筋にと彼の唇が移動する。
触れた数だけ、体に熱が上がる。
胸が高鳴り呼吸が荒くなる。
こんな感覚を、私は知らない。
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