幼な妻だって一生懸命なんです!
菜々子さんの持つスマホだけが中心にあって、彼女たちは私を押しのけていた。
申し訳ないような、少し腹立たしいような複雑な気持ちで私は彼女たちの様子を眺めていた。
菜々子さんが最後にスライドさせて見せたのはさっきの写真。
要さんが私にキスをしている姿だった。
「…」
一瞬の沈黙。
「…瀬戸さんも、きれいですね」
苦し紛れに言葉を並べた感想。
テンションが下がり、蜘蛛の子を散らすようにみんな職場へと戻っていった。
その様子を見て、「はははは」と笑うのは菜々子さんだけだった。
「菜々子さん!」
ただでさえ居心地が悪いのに、何してくれてるんですか。
とは言えず、スマホをしまうように促すと
「これくらいやっておかないと、人の旦那にちょっかい出すから」
「そんなことしませんよ」
「わかんないでしょ、女は執念深いからね」
「えーーー」
「あ、そうそう、マスターが時間ができたら二人で店においでって言ってた。お祝いしてくれるって」
「ありがとうございます。そう言えば…マスター、要さんのこと知っていましたよね」
「うん、まぁ」
菜々子さんはそれ以上、何も言わずに、最後の開店準備に取り掛かった。
案の定、年末を間近に忙しさが普段より倍以上になっていた。
年末前にクリスマスもある。
いつもうちの店にはクリスマス限定の濃厚なチョコレート菓子が紅茶とセット販売され、それが大好評なのだ。
パッケージも女性をターゲットにシンプルで、それでいて可愛いらしさを施しており、年齢を問わないデザインが受けている。この企画も要さんが携わったと聞いている。
ネット通販もあるが、手売りと言うコンセプトに基づいた手売りバージョンがあるため、店はクリスマスに向けて、そのセットの販売で大忙しなのだ。
それに加えて、通常業務も重なり、毎日がヘトヘトだ。