幼な妻だって一生懸命なんです!
「失礼しました。主人がいつもお世話になっております」
はたして、お得意様にこんな挨拶でいいものだろうかと自信がない。
失礼に当たらないだろうか。
家に帰ったら、要さんにこんな時はどう対応した方が良いか聞いておこう。
「あら、そんなにかしこまらないで。実は私ね、結婚前はこの百貨店で働いていたのよ。一ノ瀬由香と申します。長瀬くんとは同期だったの」
「あ、え、そうなんですか」
要さんと同期と聞いて、一気に距離が縮まった気がした。
けれど、対応がやはりわからない。
まだまだ自分の未熟さを感じる。
「ふふふ、そうなの。彼、こんな可愛くて若い奥様を貰ったのね。ご結婚はいつしたのかしら?」
「おとといです」
妻として嫁として新米すぎて、気恥ずかしくなる。
「…そう…」
由香さんはそれを聞いて私の顔をまじまじと見た。
何かを考えるようにじっと私をみつめる。
途端に居心地の悪さを覚えた。
「お子さんは?考えているの?」
急にプライベートに踏み込まれた質問に違和感を感じる。
「まだ結婚したばかりなので…可愛いお子さんですね、おいくつですか?」
とっさに話を逸らし流れを変えた。
流行りの戦闘もののキャラクターの靴を履いていたり、服装を見ると、可愛らしい顔をしていても男の子なのはわかる。
「よういち、いくつかお姉さんに教えてあげて」
よういちと呼ばれた子は、私の顔を見ながら指を三本立てて「みっつ」と答えた。
「わ、すごいね、自分で言えるの。それに男前だな、ボク」
可愛らしさの中に整っている目鼻立ちはきっと将来ハンサムになる。
何気なく言った言葉に由香さんが嬉しそうに答えた。
「そう?父親似なのよ」
なるほど、ご主人を褒められたことになるのかな。
オレンジジュースを必死に飲んでいる子どもを愛おしそうに目を細めて見ている。
母性愛っていうのかな、そういう雰囲気が内面から溢れ出ている気がする。
その視線が再び私に戻って来た。