幼な妻だって一生懸命なんです!
店先がなんだか騒がしい。
お客さんが集中しているのだと思い、すぐに私も慌ててバックヤードから出て行った。
「あっ!」
ショーウィンドウ越しに菜々子さんと向かい合っているのは長瀬さんだった。
私の姿が見えたと同時に二人の視線が同時に向けられた。
「瀬戸さん、お疲れ様です」
さっきと同じ爽やかな笑顔。
食堂での出来事は瞬く間に広がったのだろうか。
隣や前の店舗の店員も接客をしながら、こちらをチラチラと様子見している。
「お疲れ様です、長瀬さん。今日は何かご連絡頂いていましたでしょうか?」
経営戦略室の用事と言ったら、得意先への手土産か私用だ。
菜々子さんは完璧な営業モードで動じない。
背の高い菜々子さんと長瀬さんの二人は美男美女で映える。
それに比べて私は頭一つ小さい。
背丈ですら、釣り合っていないと自覚させられる。
どうしてもさっきの出来事を信じられないのだ。
「川西さん、ありがとう。今日は業務じゃなくてね、瀬戸さんに個人的な用事です」
丁寧に菜々子さんに断りを入れると、私の方へと向き直った。
「瀬戸さん、少しいいかな?」
業務中だし、店先だし、良いわけがないと私が言葉を探して戸惑っていると菜々子さんが助け舟を出してくれる。
「それはそれは。経営戦略室はたいそう暇なんですね。室長自らサボりに来ているとは」
棘をたくさん含んだ言葉で長瀬さんに対応している菜々子さんに、今度は私が驚いた。
皮肉ったぷりに対応しなくても。
そんな塩対応に、一度は菜々子さんの顔を見たが、長瀬さんが、もう一度、こちらに視線を向ける。
「瀬戸さん、連絡先を聞いて良いかな?」
「…このお店のですか?」
「ははは、それは素なの?とぼけてるの?瀬戸さん個人のだよ。あとで連絡がしたいんだ、個人的に」
わ、わ、またこんな公衆の面前でやめてほしい。
「長瀬、迷惑。美波ちゃんも困ってるでしょうに。なんだかわからないけど、仕事終わってからにしてくれない」
何かを察した菜々子さんが、今までと違った口調で、しかも営業スマイルはとっくに取れていて彼を呼び捨てにしているのを聞き逃さなかった。
長瀬さんは、ふとティールームを見て、お客様がいることを確認しながら、小さくうなずいて
「申し訳ない。では、閉店後にまた来ます」
小さく会釈をして足早に去って行った。
いつの間にかいた野次馬たちが、長瀬さんが去ると同時に、自分の持ち場へと戻る。
「やっぱり噂は本当なの?」
「結婚するの?」
「マジか」
「でも今連絡先?」
様々な声が聞こえて来た。
外野の音と一緒に隣から
「美波ちゃん、あとで詳しく」
意味深な笑顔を残し、菜々子さんの声は私だけに聞こえた。
「はい…」
菜々子さんには話をしないといけない、話を聞いてほしいと思っていた。
それに…菜々子さんと長瀬さんの関係が気になり始めていたから。