幼な妻だって一生懸命なんです!
その日、私は早番で閉店三十分前に店を上がった。
ただ、長瀬さんの「閉店後にまた」という言葉が気になっている。
閉店までいる菜々子さんが「私がなんとかするから、先に行ってて」と言われたので、そのまま百貨店を後にした。
これまで長瀬さんと店内で会うことはほぼない。
考えれば考えるほど、なぜ私なのかわからない。
そんなことを考えながら「先に行ってて」と菜々子さんに言われた店にたどり着いた。
百貨店から近い菜々子さんと私の馴染みのカフェバーだ。
重い木のドアを開ける。
「お、美波ちゃん、いらっしゃい」
マスターがカウンターから迎え入れてくれた。
「奈々は後から?」
「はい、遅番です」
このカフェバーに連れて来てくれたのは奈々さんだ。
マスターとバーテンダーの直人さん、そしてバイトが一人。
シェイカーを振りながら直人さんも「いらっしゃい」と笑顔をくれた。
「マスターここのドア重い!」
「ははは、美波ちゃんは来るたびにそれ言うよな。」
155cmしか伸びなかった背が大きな木の扉を押すには力が足りない。
ドアが重くて開けられないのは背が低いからじゃないって言われても、コンプレックスなんだからこじつけてしまう。
「お疲れ様、ここどうぞ」
直人さんのいるカウンターのほぼ中央から向かって左側の端を案内された。
時刻は19時前。
お客さんはカウンターの反対側に女性が一人と、テーブル席に男女のカップル。
まだカフェバーが賑わう時間よりも少し早い。
店内には4人のヴォーカルが歌う切ないラブバラードが流れている。
マスターが好きなR&Bだ。
カウンター席のスツールに「よっこいしょ」と言いながら座ると、マスターが「踏み台、用意しておこうか?」とからかった。