幼な妻だって一生懸命なんです!
社長室に入ると自席に座っていた多田さんが立ち、にこやかに迎え入れてくれたのに、私の顔を見るなり「どうしたんですか?顔が真っ青ですよ」とすぐにそばに寄り体を支えてくれた。
彼女に体を支えてもらうまで、自分がどんな顔をしているのかわからなかった。
扉が開いたままの先には、先ほどと同じように嬉しそうに紅茶を飲む社長が見える。
私はそのまま社長へと近づいていった。
「美波ちゃん、お帰り」
社長という立場を取り去って、親戚のおじさんのように気さくに接してくれる社長も好きだった。
でもさっきの二人の話だと、社長が私との結婚を条件に後継者を決めると提案したということになる。
「私は、私の結婚は、後継者を決めるための材料だったんでしょうか?」
最初、社長は何を言っているのかわからなかったらしく、しばらく動きを止めたまま、私をじっとみつめていた。
直接的な言葉を使わなかったのは、自分がその言葉に傷つきたくなかったから。
伝わらない遠回しな言葉で、社長はピンと来ていないようだ。
苛立ちと悲しさでぐちゃぐちゃになった頭は思考能力を奪い去る。
「要さんは後継者になるために、私と結婚したという話は事実ですか?」
言い直した言葉に、やはり自分で傷つく。
答えは聞きたくないくせに、聞かないと気が済まない。
矛盾しているのは承知だ。
「美波ちゃん、それをどうして…」
さっきまでとは打って変わって、社長の顔がひきつり、青ざめた。
「いや、違うんだ、あれは、その…」
社長のその表情と濁した言葉で真実味が増してくる。
やはり、そういう話はあったということなんだ。
きちんと説明を聞く余裕が今の私にはなかった。
今、その事実を聞いたってどうしたらいいかわからない。
結婚の本当の理由を聞いた今、彼とこのまま一緒にいることができる?
どうして最初に言ってくれなかったの?
結婚することが後継者の条件だって。
でも、どうして?
「なんで、私なんですか?」
社長はなぜ私を選んだの?
「それは…」
社長の額から汗が滲んでいる。
要さんや樹さん同様、年齢の割には背が高く背筋がピンとしていてダンディな姿は素敵だと評判だ。その社長が私のような小娘の前でタジタジになっているのだ。
「言えない何かがあるんですか?」
「違うんだ、そんな大げさなことじゃなくて、その、実は里子さんと…えっと」
言葉を詰まらせるが、その中の言葉を聞いてさらに疑問が湧く。
「どうしておばあちゃまが出てくるんですか?」