幼な妻だって一生懸命なんです!
私を慈愛に満ちた表情を隠さない。
「驚いたよ。僕は彼女の元を去った後の彼女の姿を知らない。美波ちゃんを初めて見た歳のころの里子さんが、僕の愛した彼女の姿だったんだ。当時の思いと後悔とが入り混ざってね、年甲斐もなく胸が苦しくなった」
複雑な思いが顔にも表れている。
「その時にすごくいいことを思いついたんだ」
けれど次に見せたのは「ひらめいた!」とでも吹き出しが頭の上に見えそうなくらいの笑顔。
「美波ちゃんを樹のお嫁さんになって貰おうと」
「はい?」
ニコニコと笑いながらとんでもないことを言い出す。
ふざけているのではない。
たぶん、いや、きっとこれは大真面目なのだ。
「美波ちゃんが僕の家にお嫁に来てくれたらって考えただけですごく嬉しくなっちゃってね、それを樹に話したんだ」
「でも私は樹さんとは出会いませんでした」
「そうなんだよ、我が息子ながら甲斐性がなく呆れたよ」
社長だからって、こんな勝手な言い分は許されるんだろうか?
「樹がね、猛烈に怒って仕事がやりにくくなってさ、その時にちょうどバイヤーとしての仕事があったからイギリスに行っててもらった」
「あの、社長、何をおっしゃってるのか途中から理解がなかなかできないんですけど」
「ははは、ま、これはこっちの都合」
「はぁ」
「その時にさ、樹なんて高山グループの後継失格と言い渡したんだ。ま、言い合いになった時の売り言葉に買い言葉みたいなもんで言っちゃったのよ」
軽い。こんな軽く経営権を剥奪することはあるんだろうか?
「あの愚息はそんなのいらねぇとか言って、海外に行ったきり帰ってこない。僕がそれを嘆いていたら要がね、その話は自分ではダメかと聞いてきたんだよ」
「要さんが自分から、ですか」
「そう。僕もさ、うちのお嫁さんとして無理なら、親戚として迎えてもいいと考えた。幸い、要は高山グループで働いているし、親戚の中でも近しい甥だ。これはありだなと許したんだよ」
こんな形で私の結婚が決められていたのか。
もう悲しさより、呆れ果て、怒りが湧いてきた。
「私は社長や要さんの思い通りに結婚した訳ですね。何も知らずに」
「ごめん、ごめんね、美波ちゃん。黙っていた訳ではなくて、その…」