幼な妻だって一生懸命なんです!
しどろもどろになっている社長を責めるつもりはない。
ただ、こんな裏話があったこと、私だけが知らずにいたこと。
私の両親や祖母はこのことを知っていたのだろうか?
「知らなかったのは、私だけだってことですね」
これからどうしたら良いかわからない。
「祖母は?両親は知っていたんですか?」
「ご両親は知らないと思う。里子さんは、こんな偶然に驚いているとは言ってたけれどわかってたんじゃないかな、だって…」
社長の言葉を最後まで聞く前に、
「社長!」
「親父!」
二人の声が重なって、社長の言葉を遮った。
振り返ると社長室の扉が全開になっていて、彼らがその扉から中に入ってくるところだった。
「美波、これには訳があって」
要さんの顔が見られない。
すぐに社長に向き直ったので彼の言葉は後ろから聞こえてきた。
「知ってます。私と結婚することが高島グループの後継者になれる条件だったんですよね」
「違う!いや、そういう話もあったけど、違うんだ」
言い訳をしている姿を見たくなかった。
「私だけ知らなかったんですね、この話を。要さんが突然プロポーズしたのも、スピード結婚したのも、子供を欲しがらないのも、全部、納得がいきました」
さっきから泣き声にならないように、自分を鼓舞する。
「えっ?要、子供要らないの」
樹さんに視線を向け睨む。今そこじゃないと言いたいのを我慢した。
すぐに多田さんが樹さんの腕を引っ張って行った。
「いったい何を言ってるんだ、美波。ああ、そっか」
彼は昨日のことを思い出したようだ。
「あれは…」
少し考えながら言葉を探している。社長と樹さんがじっと要さんを見ていることに気がついて、
「ここで話すような事じゃない」
話を止めた。
もう一つ私を悩ませている問題がある。
「一ノ瀬、由香さん」
この名前を言うと要さんと同時に樹さんまでも大きく反応した。
「由香がなんだ?」
要さんの声が唸るように低くなる。
樹さんも
「一ノ瀬由香って、あの子だよな」
彼女の存在を知っているようだった。
要さんは息を吐き、
「とにかくちゃんと話を聞け」
苛立ちを隠さずに私の腕を掴んだ。