幼な妻だって一生懸命なんです!
菜々子さんより三歳年上と聞いているマスターは、今年で三十五歳だという。
見た目が若く、菜々子さんとは、昔馴染みだというから初めは同級生だと思っていた。
「先に何か飲んでいますか?」
直人さんが一応、メニューを差し出してくれたけれど、そのメニューを見ずにカシスソーダを頼む。
考えなくても頭の中が今日の出来事でいっぱいだ。
あれから店には長瀬さんが来たのだろうか?
先に帰ったことを知って気を悪くしていないだろうか?
菜々子さんは長瀬さんに会っただろうか?
「はぁ」
頭を抱えているとコトンという音と一緒にカシスソーダをカウンターの中から私の前に置きながら直人さんが声をかける。
「どうしたんですか?珍しく悩み事ですか?」
「珍しいは余計です。でも悩み事は…あーーーーどうしよう」
「どれどれ?おじさんが聞いてあげるよ」
直人さんの横からマスターが面白そうに目を輝かせてお通しのナッツを差し出して来た。
「菜々子さんが来てからにします」
菜々子さんに義理立てたつもりだけれど、本当は自分の中でまとまりがつかないのだ。
仕事中はさすがに考えないようにしていたし、接客に入ると考える暇もなかった。
そして今、いざ考えだすと頭の中がはてなマークでいっぱいになる。
「はいはい」
たいして興味のない返事をして、マスターはカウンター内を行ったり来たりしていた。
カシスソーダがまだ半分も減らないうちに、バーの扉が開いた。
菜々子さんだ。