幼な妻だって一生懸命なんです!

菜々子さんより三歳年上と聞いているマスターは、今年で三十五歳だという。
見た目が若く、菜々子さんとは、昔馴染みだというから初めは同級生だと思っていた。

「先に何か飲んでいますか?」

直人さんが一応、メニューを差し出してくれたけれど、そのメニューを見ずにカシスソーダを頼む。
考えなくても頭の中が今日の出来事でいっぱいだ。
あれから店には長瀬さんが来たのだろうか?
先に帰ったことを知って気を悪くしていないだろうか?
菜々子さんは長瀬さんに会っただろうか?

「はぁ」

頭を抱えているとコトンという音と一緒にカシスソーダをカウンターの中から私の前に置きながら直人さんが声をかける。


「どうしたんですか?珍しく悩み事ですか?」


「珍しいは余計です。でも悩み事は…あーーーーどうしよう」


「どれどれ?おじさんが聞いてあげるよ」

直人さんの横からマスターが面白そうに目を輝かせてお通しのナッツを差し出して来た。

「菜々子さんが来てからにします」

菜々子さんに義理立てたつもりだけれど、本当は自分の中でまとまりがつかないのだ。
仕事中はさすがに考えないようにしていたし、接客に入ると考える暇もなかった。
そして今、いざ考えだすと頭の中がはてなマークでいっぱいになる。

「はいはい」

たいして興味のない返事をして、マスターはカウンター内を行ったり来たりしていた。
カシスソーダがまだ半分も減らないうちに、バーの扉が開いた。
菜々子さんだ。

< 8 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop