クールな部長の独占欲を煽ったら、新妻に指名されました
「すごくうまい」
そう言われ、ほっと胸をなでおろした。
「お口にあってよかったです」
「ラタトゥイユって、家で作れるものなんだな」
スプーンを口に運び感心したように漏らした部長に、私は微笑んでうなずく。
「彩りが鮮やかで手が込んでいるように見えるかもしれませんが、お野菜を切って煮込むだけなので簡単なんですよ。私が小さなころ、母がよく作ってくれたんです。週に一回は出て来たかな」
「へぇ。そんなに好物だったんだ」
「好物だったというか、子供のころ私がすごく食が細くてお肉や魚をあまり食べなかったので母は苦労したらしいんです。でもトマトベースのものだと食が進むと気付いて、たんぱく質をとれるようにお豆をたくさん入れたり鶏肉を入れたりアレンジをして、いろいろ工夫してくれたみたいです」
この話は自分で覚えていたわけではなく、大きくなってから聞かされたものだ。
「家ではいつも母と一緒にキッチンに立つんですが、料理をしながら『頑丈でなんでも食べる真一とは違って、食が細く体も弱かった遙にはたくさん苦労したのよ』ってよく文句を言われます。でも手がかかったぶん、かわいくてしかたなかったって」
「愛されて育ってきたんだな」