クールな部長の独占欲を煽ったら、新妻に指名されました

 私にぶつかってきた相手は、「ちっ」と苛立たしげに舌打ちをした。
 驚いて顔を上げると、そこにいたのは見覚えのある男の人だった。

 光沢のある派手なスーツをだらしなく着ている男の人。
 一瞬だれだっけと考えてはっとする。

 私が驚いて目を見開くと、相手もこちらを見て顔色を変える。

「お前……」

 低い声でつぶやかれ、背筋が震えた。

 そこに立っていたのは、前に飲み会で私をホテルに連れ込もうとした銀行員の桑井さんだった。

 とっさに逃げようと背を向けると、腕をつかまれ引き戻される。

「待てよ。人の顔を見た途端逃げ出すなんて、相変わらず失礼な女だな」

 笑いを含んだ声で言われ、ざっと血の気が引いた。

「すみません。急いでいるので……」

「そうやって逃げ出すってことは、俺に後ろめたい気持ちがあるんだよなぁ?」

 そう問われ、眉をひそめる。
 後ろめたい事情があるのは私ではなく、酔わせて無理やりホテルに連れ込もうとした桑井さんのほうだ。
             
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