クールな部長の独占欲を煽ったら、新妻に指名されました
せめて特別扱いはされたくないと、職場では社長令嬢であることを伏せて働かせてもらっている。
苗字は社名や社長と同じだけれど、特別珍しい名前でもなかったので一緒に働く社員たちから身分を疑われることもなく、毎日平和に仕事をしていた。
先輩が『宮下さんが入社してから、やけに社長や専務がうちのフロアに来るようになったよね』なんてつぶやくのを聞いて冷や汗をかくときもあるけれど。
私が社長令嬢だと知っているのは家族や会社の役員たち以外では同期で友人の中谷千波さんと、直属の上司の部長南恵介さんだけだ。
南部長は兄の大学からの親友で、私が中学生だったころから知っている。
学生時代、兄が友人である彼を家に連れて来ると、私は嬉しくて仕方なかった。
過保護で口うるさい兄とは違い、寡黙で凛として近寄りがたくて、でもすごくかっこいい人。
すっと通った鼻梁と涼しげな黒い瞳、少し薄めの唇。綺麗なパーツが正しい位置に配置されたその顔は、端正という言葉がぴったりだった。
表情は少なく不愛想だけど、彼の横顔は見ているだけで胸が苦しくなるくらい綺麗だった。そんな恵介さんに私は憧れ続けて来た。