クールな部長の独占欲を煽ったら、新妻に指名されました
  

 そのとき後ろから「部長」と声をかけられた。

 部長はさりげなく私から体を離す。
 やってきたのは先輩の新谷さんだった。

 私はもらったばかりのカギを隠すようにぎゅっと手のひらを握りしめる。

 ふたりで話していたのを不審に思われなかったかなとドキドキしたけれど、とくに気にする様子はない新谷さんにほっとする。


「部長、休憩中にすみません。この約定書の内容を確認してほしいんですけど」

「わかった。今行く」

 新谷さんの言葉にうなずいて歩き出す部長。

 私の横を通りすぎるとき部長はこちらに腕をのばし、胸の前でカギを握りしめていた私の手に一瞬触れた。
 
 驚いて視線をあげると、「なくすなよ」と私にだけ届くように吐息だけで言って小さく笑う。

 そして前を向いて歩き出したときにはもう、いつもの仕事モードのクールな表情に戻っていた。


     
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