全ては君の思うまま
年下なんて
「今度2人で飲みましょう」

すれ違い様、耳元でささやかれる。

私は簡単にフリーズしてしまう。
それを悟られないように、深呼吸してから歩き出す。大したことない、あんなの、好きにならない。ぶつぶつと唱えて、平常心を取り戻す。

鷹野ごときに、この私が惚れるわけないんだから。

私は大人の女なんだから、あんなクソガキにペースを乱されるわけにはいかないんだから。

私は空になった弁当箱をかかえて、デスクに戻るところ。そこで偶然、営業で出かける鷹野とすれ違っただけ。


また不意打ちだ。彼はいつも突然なのだ。


飲み会での帰り道、

「寧々さん、誰か好きな人います?」

言われて唖然としたけど、そのときは酔っ払っていたから、私だって言い返した。

「いないわよ」

五歳も年下なのに、しっかりしている。頼りになるこのオトコは、営業部の中でも目を引く存在。同期から言い寄られている姿を何度か見たことがある。
まぶしいなあ、と思う。
若くて、瑞々しくて、爽やか。
それに比べて私は?

帰宅後のビールが楽しみの、干物女。
私を女だと思っている奴等は、この職場にはいないんだと思ってたけど。

「じゃ、俺なんかどうですか」

チラリと彼の方を見る。
あんまり表情を出さないオトコだなぁとは思っていたけど。余裕たっぷりの顔は、なんだか職場では見たことがない顔で。
コイツ、たくさん女泣かせてきたんだな、と変な予防線張りたくなる。

「鷹野に惚れるわけないから」

自信満々に言い返した。だってあいつも酔っ払っていて、どうせからかってるんだと思ったから。





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