全ては君の思うまま
「槙のお父さん、どこかで見たことが…」

彼は、あぁと頷いて、

「あんな顔、たくさん世の中にいるからね」

と、はぐらかされた。
うん、どこかで見た。見たけど思い出せない。
考え込んでいると、そのまま抱き締められた。

「あの人のことより、俺のこと考えてよ」

耳打ちされて、くすぐったい。

「コーヒー飲もうっか、あの人なんかくれたし。それ食べよ」

槙がキッチンに消える。
その後ろ姿を、本当に完璧だなと見つめる。
細身のジーンズがすごく似合っていて、足の長さが際立っていた。

「私も手伝う」

一緒にキッチンに入り、槙はコーヒーを、私は槙のお父さんが持ってきてくれたおみやげを開けた。薄々勘づいていたんだけど、これすごく有名なお店の名前…。開けると一口大のケーキが8個、芸術的な飾り付けをされて並んでいる。

「かわいい!なにこれ!食べるのもったいない!」

あれ?私は何か槙に言うことなかったかな?
ん、思い出せ思い出せ。

「槙、そういえば婚約者って…」

槙の方を振り向くと、そのままキスされる。キッチンなのに、槙は容赦なく唇を奪い続ける。声が上ずり、力が抜けそうになったところで体を支えられる。

「本当は今すぐこのまま…って思ったけど、まずケーキ食べよっか」

クスクスと笑われ、鼻の頭にキスされる。もう本当にこの人にはかなわないと思ってしまう。




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