全ては君の思うまま
それから何日かして、槙は出張にいってしまった。元から忙しい人だけど、体を壊さないか心配になる。

それで、ワイン会に槙が来ないことを知り、なんだかほっとしてしまった。
生島さんがお店に来たとき、

「会えなくて寂しいんじゃないの?」

耳打ちするものだから、コーヒーにむせて大変だった。

「ほっといてください」

私の反応をからかって楽しんでいる。ワイン会の準備は進み、これからというところまできたときだった。

スマホの着信相手は、妹の七菜からだった。
なんで七菜から。着信なんて久しぶりだ。

「どうしたの?」

電話に出ると、緊迫した声で

「お父さんが倒れた」

と言うのが聞こえた。慌ただしく病院の名前を言われて、電話は切れた。

田神と生島さんにこのことを告げると、ワイン会はいいから実家に帰れと言ってくれた。

これから新幹線にのればなんとか間に合うかもしれない。とにかく帰らなきゃ。

槙にこのことを言おうかどうか迷った。
もし言ったら、彼はものすごく心配するかもしれない。容態がわかってからでも遅くないと、連絡するのはやめた。
タクシーを拾い、飛び乗る。

実家に帰るのなんて、本当に久しぶりすぎる。
こんなことで、急に帰るのはとても気が重い。
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