全ては君の思うまま
頭の中は、槙のことでいっぱいになり、午後はなかなか仕事が捗らなかった。仕方なく残業し、今帰っているところ。

「寧々」

前から歩いてきた人影に、呼び止められる。
それは、今一番問いただしたい人で、一番会いたくない人。

「会社、辞めるの?」

次の瞬間、抱き締められる。
答え、まだ聞いていないのに。

「寧々をあきらめたくない」

耳元で声がする。
あなたはいつもそう。いつも、突然で強引で、それなのにこんな不安そうな声で私の名前を呼ぶ。

「辞めるの?」

「辞める」

この体温から逃れられない。
まだ、好きなんだ。どうしようもなく、好きなんだ。自分の気持ちに蓋ができなくなる。

「寧々の出した答え、家族を大切にしたいってのは間違ってない。でも、分かってない」

体は離れ、顔をのぞきこまれる。

「俺の気持ち」

そんなの、ずるい。

「結婚して下さい」

畳み掛けるような彼の言葉に面食らう。

「どういう意味?」

「全部俺に任せてくれればいい」

「任せてってどういう?」

この人とこういう問答をするのは初めてじゃない。むしろこうなったら私の敗けだって分かってる。


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