全ては君の思うまま
1日の夢でいいから
目の前にはめったに出会えないお宝ワインが注がれているというのに、愛想笑いをべったり張り付けたまま動けない。

というのも、若手がときどき催すワイン会なるものに

「どーしてもどーしても寧々さんに来て欲しいんです」

と前の販売部で一緒だったときの後輩にしつこく頼まれて来たのに。

私の隣には何でか鷹野が座っている。
若者たちとワインの情報交換をした後、カウンターに移って1人で飲んでいたのだ。情報交換の後は、プライベートな飲み会へと変貌するワイン会は若者たちの絶好の悩み相談の場になる。もしくは合コンのようになる。

恋愛の悩みを何件か受けた後、このワインバーのソムリエからも話を聞きたくてカウンターに移ったのに、私が座るのと同じタイミングで鷹野も隣に座った。

さっきまでどこにもいなかったのに。
げっ、という顔を隠せずにいると、

「その顔はないでしょ」

とこいつは愉快そうに笑っている。
鷹野が現れたことで何人か女の子達が側にやって来たけれど、

「ごめん、仕事の話をしてからそっちに混ざるから」

と断っていた。
かといって仕事の話をするわけでもなく、ソムリエに何かをお願いしたようだった。

出てきたのは、この滅多に出会えないと言われている数年前の赤で、クラクラ目眩を覚えた。
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