@YUMI KO
しかし穂香は硬直してしまったかのように、動けなくなっていた。


やがて赤ん坊の泣き声の後ろから低いうめき声が聞こえて来た。


それは日本語にはなっていなくて、ひたすら苦しむ声だった。


その声は遠くから徐々にこちらへ近づいて来て……「嫌!」穂香が叫び声を上げてスマホを放り投げていた。


その途端、プツリと通話が途切れた。


「今のなに? 誰かの声だった?」


あたしが聞いても穂香は左右に首をふるばかり。


一体今の電話はどういうことだろう?


寒気がして穂香の手を握りしめた時、なんの前触れもなく部屋のドアが開かれた。


大きな悲鳴を上げそうになり、慌てて自分の口を押えた。


ドアの向こうにはエマが立っていて、ジッと穂香を見つめている。


「電話、切っちゃったの?」


エマの言葉に穂香がビクリと体を震わせる。


「ちょっとエマ、寝たんじゃなかったの?」


エマの目はしっかりと見開かれていて、少しも眠っている感じじゃなかった。
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