極上旦那様ととろ甘契約結婚
「切りの良いところまで終わったら昼飯にしよう。少し歩いた所に美味い蕎麦屋があるんだ」

「引っ越し蕎麦ですね!」

「ああ。食事が済んだらそのまま区役所に行こうと思うが、大丈夫か?」

「あ、はい」

いよいよ婚姻届を出すのだと思うとドキドキする。しかも今回の私達は本当の結婚ではなく、言ってしまえば嘘の結婚だ。みんなを騙しているような心臓に悪い感覚も消えない。

「本当に大丈夫か?」

思わずギュッと胸の前で拳を握ってしまったのを見逃さなかったらしい。

「だ、大丈夫ですよ。なんか本当に名字が変わるんだなぁって思ったら緊張しちゃっただけで」

「緊張、か。そうだな、ずっと付き合ってきた名字が変わるんだから当然か」

「はい。変な気持ちです」

「そうだ!その件で提案があるんだが」

食い気味で勢いもある、こんな返事は珍しい。
さも思いついたように見せかけて、どうやらずっと言い出すタイミングを測っていたっぽい。それを私に悟らせるのは普段感情が表に出ない高崎主任には珍しい事だが、ちょっと嬉しい。オフィスでは絶対見られなかった姿をこうして二人でいる時には見せてくれるようになったから。
でも今は主任の為に、そんな事には気付いてないように返事を返す。

「何ですか?」
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