極上旦那様ととろ甘契約結婚
これから不安で仕方ないのに、大好きだった母に心配かけたくなくて、でも子供な自分が不甲斐なくて。少しでも視線を下げたら涙が溢れでてしまいそうだったから、ぐっとくちびるを噛み締めて、立ち昇っていく煙を見上げ続けていた。

その時に話しかけられたのだ。

一体何と言われたのか、相手がどんな人だったのかは思い出せないけれど、煙から視線を逸らさぬままに私は会話をしたはずだ。

訥々と、淡々と。
場所も場所だし、きっとも相手も大切な人を亡くしたのだろう。少ない会話で私達は分かり合えた、のだと思う。

相変わらず涙を堪えて煙を見つめ続ける私にその人は言ってくれたのだ。

『君は神様に信用されてるんだよ』

前後の文脈がほとんど思い出せないけど、確か『神様は乗り越えられる試練しか与えないから、そんな辛い体験をしてる君は神様に信用されてるんだよ』って意味合いだった、と思う。

「親の葬儀中にまさか褒められるとは意外過ぎだよね」

ふふっと思わず笑ったのは思い出せてすっきりしたのと、自分を支えてくれた言葉に触れたタイミングの可笑しさのせいだ。

その前にも後にも多分会話はあったはずだけど、それは思い出せない。思い出せたらきっともっと楽しい気分になれるはずなのに、と思いながら考え事をしたせいでのぼせかけたお風呂を出た。
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